『柏木家の夜 -楓-』 〜 痕 柏木楓 〜



「…耕一さん。起きていらっしゃいますか」
 暗やみの中で、俺を呼ぶ声がした。楓ちゃんの声だ。不安げに、その声は
震えている。俺は、ああ、と短く応えた。
 暗やみに慣れた目で楓ちゃんを見る。
 わずかに差し込む月明かりに照らされ、薄い寝間着ごしに身体のラインが
はっきりと見て取れた。
「記憶をなくされているというのは、本当なのですか?」
 楓ちゃんが、心配そうな瞳で見つめている。俺は、千鶴さんとの先ほどの
会話を思い出していた。
『三人には、心配をかけたくありません。あなたが、記憶をなくしたとだけ、
話しておきます…』
 千鶴さんの声が、頭の中で何度となく繰り返される。
「そちらへ、行ってもいいでしょうか」
「きてもかまわないけど…楓ちゃん、こんな夜更けに…あっ」
 たたたっと、小走りに駆け寄る気配があったかと思うと、次の瞬間には、
楓ちゃんは俺の胸に飛び込んでいた。
 甘い香りが、鼻孔をくすぐる。寝間着ごしに、柔らかな楓ちゃんの身体が
感じられた。少女から、少しずつ女へと変化しつつある、丸みのある身体。
「私に…耕一さんの記憶を取り戻すお手伝いを…させてください」
 声とともに、俺の唇に柔らかいものが触れた。
「んっ…」
 甘い吐息が、あわさった唇から漏れる。
 それまで、かろうじて保っていた俺の理性が、音を立てて切れた。
 腕の中にある楓ちゃんの身体を、きつく抱きしめる。
 あわせていた唇を離すと、楓ちゃんの首筋へと移す。
 びくっと、楓ちゃんの身体が震えた。
 舌を立てるようにして、鎖骨から耳元へのラインを刺激する。
「……っ」
 つつつっと、俺の舌が動くのにあわせるように、楓ちゃんの身体が細かく
震えた。
「怖い? 楓ちゃん」
 舌を離して顔を見つめ、あえて口に出して聞く。
 目をつぶったままで、楓ちゃんがふるふると首を振った。
 口には出さずに、楓ちゃんは俺の肩に手を回すとぎゅっと抱きしめてきた。
 それだけで、楓ちゃんの想いが伝わってきた。
 楓ちゃんの想いに応えるように、腕を回して身体を引き寄せる。
 薄い寝間着の布ごしに、つややかな肌の感触が感じられた。
 背中に回した指先を、背中のラインに沿って滑らしていく。
 楓ちゃんは、下着をつけていなかった。
 可愛らしいお尻を、手のひらの中に納める。
 寝間着の胸元から、もう一方の手を差し入れて胸のふくらみを探した。
 つんと立った乳首に、指先が触れる。
「あぁ…耕一さん…」
 指先で軽く触れると、楓ちゃんの口から、可愛らしい声が漏れた。
「ん…あ…あん…」
 指先の動きにあわせて、唇が音を刻む。
 足の付け根を回り込むようにして、お尻にあてていた手を前へとうつした。
 遠慮するようにわずかに生えている、やわらかな体毛に触れる。
 指先に触れる、ざらりとした感触があった。
 その中へとゆっくりと指を進ませていく。
 探りあてた場所は、すでに潤っていた。
「楓ちゃん、俺を感じてくれてるんだ」
 真っ赤に染まった顔で、楓ちゃんが小さく頷く。
 いとおしむように、指を動かした。
 くちゅ、くちゅ、くちゅ。
 濡れた音が、指の動きに合わせて響く。
 それだけで、俺はもうたまらなく高まっていった。
「…いくよ」
「…………はい」
 楓ちゃんが応える。
 高ぶった感情に合わせて上気していた楓ちゃんの頬が、羞恥でさらに赤く
染まった。
 感動を覚えるほどに、楓ちゃんは可愛かった。
 楓ちゃんが欲しい。
 可愛がってあげたい。
 滅茶苦茶に蹂躙してしまいたい。
 気持をつなげあわせたい。
 楓ちゃんをいとおしむ気持と、楓ちゃんを執拗に求める情欲が、俺の中で
複雑に絡み合っていた。
 俺は、気持ちの高ぶりにあわせて十分に大きくなったものを、楓ちゃんの
足の付け根へと導いた。
 じらすように俺自身の先端を楓ちゃんと軽くこすり合わせると、その動きに
あわせて、楓ちゃんが切なげな声を上げる。
「こ…いち……さん…」
 その声に誘われるように、俺はゆっくりと腰を前へ進めた。
 敷布を握りしめた楓ちゃんの右手の細い指が、真っ白になるほどにきつく
閉じあわさった。
 左手は口元へとあてられ、高ぶった気持ちを漏らすまいとするかのように、
楓ちゃんは小指の先をきつく噛んでいた。
「ん…んんっ」
 するりと、吸い込まれるように中へと侵入していく。
 熱く、滑らかなものに包まれる感触。
 びくん、びくんと、波打つような血液の鼓動が頭の中に響く。それはまるで、
二人のきもちの高まりを示しているかのようだった。
「あったかい…」
 楓ちゃんが、いとおしむようにお腹をなでた。楓ちゃんの中に侵入している、
俺自身をなでるように。
「…嬉しいです。こうしていると、安心できます。耕一さんといるんだなって
…あっ」
 俺の中に生まれた、楓ちゃんへのたまらないほどの切ない想いが、身体を
支配した。真っ白になった頭の中で、楓ちゃんのきゃしゃな身体を抱きしめ、
狂ったように耳もとで名前を呼び続ける。
「楓ちゃん…楓ちゃん…」
「…耕一…さん」
 苦しそうに身じろいだ楓ちゃんの声で、唐突に我にかえる。
 けほっ、けほっ、けほっと、楓ちゃんが苦しそうに咳込む声が、それに続いた。
「ご、ごめん。大丈夫だった?」
「大丈夫…です。強く抱かれると、幸せな気持ちになるのに…身体だけが苦しくて」
 けほっ、けほっ。
 もう一度咳込んで、言葉を続ける。
「私の身体は、耕一さんのものです。身体だけではなく、心も、私のすべてが」
 きゅっと、楓ちゃんが中で俺を締め付けた。痺れるような心地好さが、心だけ
でなく俺の身体をも支配する。
「私を…感じてください」
 返事はせず、俺はゆっくりと唇を触れあわせた。
 軽く舌を差し込むと、ふわっとした舌触りがあった。
 柔らかな感触。
 おずおずと、楓ちゃんが舌を触れ合わせてきた。遠慮するように先端をあわせる。
 ちゅっ、ちゅるっ、ちゅっ。
 水気をたっぷり吸った独特の音が、舌と唇の動きにあわさって漏れる。
 何かに取りつかれたように、お互いを求めあった。
 興奮が高まっていく。
 舌を絡めたまま、身体を動かした。濡れた粘膜の感触を感じながら、楓ちゃんの
中へと入り込んでいたものを、ゆっくりと引き戻す。
 離すまいとつかまれたような抵抗が、快感を増幅させた。
「あっ…」
 唇を放すと、楓ちゃんが声を漏らした。
 しびれるような刺激。
 それに誘われるように、ゆっくりと身体を突き入れた。楓ちゃんが俺を迎え入れる。
 熱く、なめらかな、包み込まれるような感触。
「ん…あんっ…」
 戻るたびに、進むたびに、楓ちゃんの可愛らしい声が上がる。
「あ…あぁ…あぁっ…」
 身体の動きに合わせて、唇から漏れる吐息。
 俺は、上半身を重ね合わせるようにして、楓ちゃんの身体を抱きしめた。
 楓ちゃんが、両手を俺の背中に回す。そのまま、手のひらをきゅっと握りしめた。
爪が、俺の背中に軽く食い込む。
 ちくりと痛みが走る。その場所に、楓ちゃんの心が刻み込まれたような錯覚を
感じていた。
「耕一さん…」
 指に力を込めたまま、楓ちゃんが俺の名を呼んだ。
「楓ちゃん…」
 抱きしめた腕にわずかに力を込めつつ、俺も応える。
 触れ合わさった胸が、身体の動きにあわせて揺れていた。柔らかな抵抗が感じ
られる。わずかに汗で濡れた、肌の触れ合う感触が心地好かった。
 じんとしびれるように沸き上がってくる、身体に感じる強い快感。それとは別に、
心に感じる甘い切なさ。身体を動かすたびに、繋がっているところから湧いてくる
快楽の波。
 すべてがまじり合って、二人の想いを高めていた。
 楓ちゃんの中に、深く入り、戻る。
 お互いに溶けあうことを求めるように、肌を合わせる。
 汗となにかがまじり合った甘酸っぱい匂いが、かすかに俺の鼻をくすぐっていた。
「…っ…ん…あん…」
 身体をこすりあうたびに、楓ちゃんの声が部屋の中に響く。
「んっ…はぁっ…あ…」
 何度も何度も、可愛らしい声が俺の耳に飛び込んでくる。
 奥深くに入るたびに、楓ちゃんは何かに耐えるような表情でぎゅっと目をつぶった。
 きゃしゃな身体が、細かく震えていた。
 身体の芯から何かが沸き上がってくるような感覚が、俺を包んでいく。
「…か、楓ちゃん。俺…もう…」
 小さな声で限界が近いことを知らせると、楓ちゃんは俺の首に両手を回し、身体を
密着させた。
「こ…いちさん…私も…あっ」
 びくんと、楓ちゃんの身体が跳ねる。
「ああ…あっ……んんっ…」
 楓ちゃんの身体の中が、声と同期するように、きゅっ、きゅっと、俺を締め付けた。
 背中をいっぱいに反らせながら、大きく身体を震わせる。
「い…あっ…や…ぁ……」
 楓ちゃんの声が高まると同時に、俺はひときわ深く楓ちゃんの中へと入った。
 びゅくっ、びゅくっ、びゅくっ。
 高まっていた想いが、楓ちゃんの中へと流れ込んでいく。
「楓ちゃんっ…」
 いとしい者の名を呼びながら、俺はすべてを彼女の中へと流し込んだ。
「…っ……」
 身体から、力が抜けていく。
 それとともに、これまでに感じたことのない充足感が、俺を包み込んだ。
 そのまま肌を合わせて、楓ちゃんの体温を感じる。
 俺と楓ちゃんの、荒い息づかいだけが部屋の中に響いていた。
 お互いの心臓の鼓動が、同期するように流れていく。
 とくん、とくん…。
 楓ちゃんのつつましやかな胸のふくらみが、呼吸のたびに上下していた。
「楓…ちゃん」
 名前を呼び、手を伸ばして髪の毛をなでつける。
「ん…んんっ…」
 気持ち良さそうに、楓ちゃんはそれを受け入れた。
 何度も、さらさらの髪に触れる。
 まだお互いに繋がったままで、俺は俺は楓ちゃんの唇に触れた。
 気持ちを確認するように、軽く舌を差し入れて絡ませあう。
 唇を離すと、互いの唇を結びつけるように、小さな糸が伸びる。それに惹かれあう
ように、俺はもう一度だけ楓ちゃんの唇を求めた。
「…可愛かったよ」
 言葉とともに、楓ちゃんの身体をきつく抱きしめる。
「…耕一さん」
 楓ちゃんの腕が、俺の身体を抱き返してきた。
 小さな身体に抱かれながら、俺は落ち着いた気持ちで眠りへと落ちていった。