『夜明けの二人』 〜 To Heart 保科 智子 〜




「…っと……」
 目をあけると、すでに部屋の中には日が射し込んでいた。
 薄暗い部屋の中で、光の当たったところだけが、鏡のように明るく照り輝いている。
 寝起きでぼうっとした頭を軽く振って、身体を起こした。
「ん……」
 その気配が気になったのか、横に寝ている委員長が、眠たそうな声とともに寝返りを打
つ。
 聞き取れないほどの小声で何かつぶやきながら、シーツを身体に巻き付けるようにして、
オレから奪い取った。
 肩口から胸の谷間にかけての綺麗なラインが、その隙間からちらりと覗く。
 もちろん、シーツの下には何も身につけていない。
 ベッドの回りに散乱する下着と服が、昨日の夜を思い出させてくれた。
「そうか…あれから、一緒に……」
 オレは、委員長を帰さなかった。
 自分でもあきれるほど何度も、彼女を抱いた。
 そのことによって、オレの想いを伝えるかのように、委員長の身体に溺れた。
 そして、彼女もそれに応えてくれた。
 その時の狂気じみた興奮は、もう残っていない。かわりに、静かで穏やかな感情が、心
の中に満ちているような感じがした。
 委員長のことを、いとしく思っているオレがいる。
 そばにいるだけで、頬がゆるむほどに。
 なんだか、不思議な気分だった。
「ん……ふ…」
 オレの起きている気配が気になるのか、委員長が、また寝返りを打った。
 身体を丸めたまま、顔はこちらを向いた状態で体勢を落ち着ける。
 寝ていると、普段からは想像もつかないほど、無邪気な顔になる。
 年相応の――もしくはそれ以下にすら見える、あどけない寝顔。
 もっとも、可愛いのは、起きていても変わらないか…。
 本人の前でいったら真っ赤な顔で反論されそうなことを思いつつ、オレは寝姿を見つめ
直した。
 やっぱり、綺麗だよなぁ…。
 昨日の夜、オレの身体の下で、恥じらいつつ小さな叫びを上げていた委員長の姿を思い
出す。
 可憐で、可愛らしくて、他の誰よりも綺麗だった。
 普段の委員長の、つっけんどんなものの言い方も、甘えるように上目遣いで見上げてく
る仕草も、ちょっと拗ねたときの顔も。
 オレなんかと釣り合いがとれないほど、群を抜いて魅力的だと思う。
「オレなんかで良かったのか、本当に…」
 小さくつぶやいて、指先で髪に触れた。
 さらっとしたいい感触がして、それは指先から逃げていく。
「ん…ふじたくん……」
 目を閉じたまま、委員長の唇が小さく動いた。
 甘えるように、すがりつくように、その指先がオレの身体に触れ、つかもうとする。
「起きたのか…?」
 寝ぼけての仕草かもしれないと思いつつ、小声で問いかけた。
「…うん……おはよ……」
 焦点の定まらない目をこすりつつ、委員長が身体を起こした。
 身にまとっていたシーツが、上半身から滑り落ちる。
 豊かな胸が、柔らかさを誇るように、ゆっくりと揺れた。
「おはよう……智子」
 少し照れくささを感じながらも、オレはそう呼んだ。
 一瞬の間のあと、彼女はゆっくりと笑顔になる。
「…浩之…くん……」
 その名を確かめるように呼び、急に顔を赤らめる。
「…って、恥ずかしいやろ……」
 とがめるような口調で。
 オレの首に手を回すと、抱きついてきた。
 その勢いのまま、ベッドの上に押し倒される格好になる。
「でも、なんか、そういうのもええかな…」
 智子が、耳元でささやきかけてきた。
 長い髪が幾筋か流れて、オレの頬にかかってくる。
 くすっと、笑う気配があった。
「“藤田くんに”やったらな」
「…分かったよ、委員長」
 オレも苦笑して、元のままの呼び方に戻す。
「ん…」
 柔らかな唇が押しつけられた。
 ふわりと、甘い香りが匂い立つ。
 遠慮がちに差し入れられてくる舌先に、応えてやる。
「っ……」
 水気を含んだ音を立てて、唇が離れた。
 少し照れくさそうに、委員長の指先が唇に触れる。
「藤田くんのこと…好きやから……」
 顔をあげて、瞳を見つめながら。
 ぎゅっと強く、抱きつかれる。
「もう、離さへん…」
 胸が押しつぶされて、形を変えるほどに抱きしめられた。
 その感触と、甘い匂いと、可愛い声に刺激されて、身体の中が熱くなる。
「オレも…離れたくないよ」
 きゅっと、柔らかな身体を抱きしめる。
 少し赤く染まった頬に、手のひらで触れた。
 そこはほんのかすかに、熱を持っていた。
「やっぱり、肌ざわりいいよな」
 あいている手で、胸に手を寄せた。
 十分な質感を楽しみつつ、突起に触れる。
「あっ…」
 指先の動きに抗しかねたのか、甘い息を切なげに吐く。
 身体が、熱く感じた。
 委員長に対する想いが、痛いほどに高まってくる。
「そんな可愛い声出すと…」
 ぐに、と手のひらの下で、柔らかな胸が形を変えた。
 びくっと、委員長がそれに反応して身を震わせる。
「こうとか、こうとか……触りたくなってくるんだけど」
 くにくにと、豊かな胸をもみしだいていく。
「……っ…」
 オレの言葉を気にしてか、喘ぎを飲み込んだように苦しげな表情をしながらも、委員長
は無言だった。
「こことか、気持ちいいと思うんだけどな……」
 つんと立った突起に指を押しつけ、刺激を加えていった。
「……胸ばっかり、触ったら…あかん」
 ぽつりと、それだけを言う。
「ダメか?」
「胸に……、なんかこだわりでもあるんか?」
「ないと言えば嘘になるけど、それほどはな」
 腕を回して、柔らかなお尻に触れた。
 そのまま、前のほうへと指先を伸ばす。
「別に、こっちでもいいし」
 昨日の行為の名残か、まだ、そこは少し濡れていた。
「ん…っ……」
 指先でそっと触れると、びくっと、委員長が身体をすくめた。
「いたずらしたら…あかん……言うてるやろ…」
 少し瞳を潤ませた表情で、とがめられた。
 それを無視して、顔を寄せて、唇をあわせる。
「いたずらじゃなくて…本気」
 離した唇を耳元に寄せて、ささやく。
「余計、あかん…」
 きゅっと、委員長が眉根を寄せた。
 とろり、と流れ出してくる液体をすくいとり、そのまま濡れた部位に指を這わせる。
「…あっ…はぁっ……」
 甘い吐息とともに、指先の動きにあわせて身体が何度も跳ねた。
 がくがくと身を震わせながら、腕をまわしてしがみついてくる。
 くちゅくちゅと、指先から濡れた音が響き始めた。
「ちょっ…本当にやめ……えっ…」
「流れ出してくる量、増えてるけど」
「そっ、それは……」
 委員長の顔が、一瞬で朱に染まる。
「気持ち…ええことは……その、………ええんやから、仕方がないやんか」
 そのままの表情で、困ったように顔をそらした。
 口を開きかけて、躊躇して、閉じる。
「藤田くんがしてくれてるって思たら、それだけでも……濡れてしまう気が、するくらい
やのに」
 自分の言葉に、真っ赤になるほどに照れながら。
 委員長は、視線をそらした。
「……どんな風に?」
「身体の中が、じわってなる感じ…かな」
 少し思い返すように小首を傾げ、考えながら言葉を紡ぐ。
「藤田くんの腕のなかにいられて、幸せやな……って感じてるうちに、心が暖かくなって
きて、頭のなかがぼーっとなってきて」
 正面から、委員長の瞳を覗き込んだ。
「気がつくと、いつのまにか……その、濡れてるっていうか」
 照れくさそうな顔が、とても綺麗に思えた。
 恥ずかしがったり、照れたりしているときは、委員長は本当に可愛くなる。
 まるで、その時だけ小さな少女にでもなったかのように。
「ありがと、委員長……」
 ぎゅっと、少し強く抱きしめた。
「……どうか、したんか?」
 子供をあやす母親のように、委員長の指がオレの髪を撫でていく。
「いや…委員長、可愛いなって」
 髪に触れていた指が、止まる。
 唇を閉じたまま、委員長の顔が見る間に赤く染まっていった。
「な、なに恥ずかしいこと……」
「そういうところが、可愛いんだって」
 反論するように、委員長は口を動かしたが、言葉にはならなかった。
 少し上気して桃色に染まった肌が、とても色っぽい。
 両腕で委員長を抱いて、身体の位置をずらす。
「委員長が可愛すぎるせいで、もう我慢できなくなってきた」
「……うん」
 いいよ、と口に出して、委員長が身体の力を抜く。
 仰向けになり、何も隠すものがない委員長の身体は、とても扇情的だった。
 十分に猛っているものを、あてがう。
 ぐ、っと腰を進めた。
 先端から、少しずつ、暖かな感触に包まれていく。
 十分に濡れているせいか、抵抗もほとんどなかった。
「んっ……」
 奧まで差し込み、脚が触れあったところで、委員長がはじめて声を出した。
「熱いよ、藤田くんの……」
 背後に回った委員長の脚が、オレの身体を抱く。
 その交差した脚に、身体を引き寄せられた。
 同時に、きゅっと、握り込むように中がきつくなる。
「…うわ、委員長っ」
 自分の意志に反して、腰が跳ねた。
 一瞬の激しい快楽に、わけも分からないまま達しそうになる。
「……?」
 不思議そうに、委員長がオレを見上げていた。
「…いま、委員長のなか、すごく気持ちよかった」
 なんとかこらえて、息を整える。
 変わりなく、きゅうきゅうと締め付けられていた。
「……もしかして、こう?」
 委員長の言葉とともに、締め付けが増した。
 それでいて、奥は柔らかく刺激を加えてくる。
「ま、待った……」
 破裂しそうなほどに猛っている分身から、思考を奪うほどの快感が流れ出してくる。
 しびれるような、とろけそうなほどの快楽。
「いいよ。気持ちええんやったら、いつでも、好きに…」
「そう言われると嬉しいけど……困る」
 くだらないとか言われそうだけど、やっぱり男のプライドってものがある。
 委員長にも、感じて欲しかった。
 そして、できれば一緒に達したかった。
「ゆっくりだけど、動くから」
「うん……」
 息を整えて、小さなリズムを生み出していく。
 大きくて柔らかな胸が、それにあわせて上下に揺れる。
「ほんまに、いつでも好きにいって、ええよ……」
 委員長が、伸ばした腕をオレの首に絡めてきた。
「藤田くんが気持ちよかったら、私も……」
 気持ちいいから、と耳元でささやいてくる。
 けなげな言葉に、胸が熱くなった。
 ――そんなことを言われては、意地でも先にいくわけにはいかない。
 胸を刺激しながら、深く浅く、往復する。
 オレの動きにあわせて身体を揺らしながら、委員長は少しずつ、声を上げはじめた。
「…ぁ…ん……はぁっ……」
 何かをこらえるように目は閉じられ、押さえながらも、あふれたかのように唇から声が
漏れ出していく。
 少しずつずれ落ちていく委員長の腕が、指先を伸ばして何かを求めていた。
 ちかっと、爪を立てられた鈍い痛みが走る。
「…ふじた…くん……」
 目じりに少し涙をためながら、申し訳なさそうに委員長がオレを見上げた。
「……少しは、よくなってきたみたいだな」
「そんなんされたら、誰かて、その……」
 口ごもって、顔を背ける。
 一瞬遅れて、爪が触れていたところに、新たな痛みが走った。
「いててっ……」
「もう、知らんっ」
 ぎゅっ、と抱きついて、オレの胸に顔をうずめてくる。
 照れた顔を見られたくないのか、声まで殺して、両腕を抱え込むように、じっと身体を
丸めて。
 そんな委員長が、よけいに可愛く思える。
「態度は素直じゃない……けど」
 あそこの中は、どろどろに溶けそうなほど熱く、濡れて、包み込んでくれる。
 かまわず、身体を揺らした。
 ちゅくっ、じゅるっ、じゅくっ……。
 こすれあうたびに、粘度の高い液体が立てる音が、少しずつトーンを上げて響いていく。
「………く……、ゃ…ぁ……」
 押さえきれずに漏れた吐息が、オレの胸に当たる。
 耳に、性感を高める音として、飛び込んでくる。
「声……聞かせて、いいんちょ」
「藤田くん、意地悪いうから、いやや……」
「ごめん、もう言わないって。……委員長の可愛い声、聞きたい」
 動きを止めて、耳元に届くように、声を出す。
「……ほんまに、か?」
「ウソじゃないって」
「なら、信じとく」
 ふたたび、委員長の腕が、オレの背中に伸びる。
 すぐに、抱き寄せられた。
 肌を密着させて、狂いだしそうなほどに互いの熱を感じて。
「…ぁ………」
 オレの動きにあわせて、ふたたび委員長が声を上げる。
 奇妙なほどに、オレの動きに反応していた。
 切ない思いが、性感を高めてでもあるかのように――。
「……はぁっ…あっ……ぁ……」
 ごくりと、嚥下する音が響く。
 それは、オレだったのか、それとも委員長だったのか。
 もはやそれすら分からないところまで、狂いそうなくらいに高まっていた。
「…あ……いいっ…きもち……いっ…」
 押さえつけるようにして溜め込んできたものが、出口を求めて走っていくように。
 波のように何度も訪れる快楽の波が、身体の中で、うねる。
 頭の中が、焼き切れるように熱く、それで占められていく。
「……智子っ」
 じんと痺れるような痛みに耐えて、いとしい人の名前を呼んだ。
「ふじた、くん…」
 荒い息の下で、名を呼び返す声が聞こえる。
 きつく、抱きしめられた。
 身体から生まれる快感と、心が生み出す快感が、その瞬間にひとつにあわさった。
 放出の予感に、身体が痺れる。
 意識もせずに、両腕で委員長を強く抱いていた。
「…いいん、ちょ……」
 かすれた声が、自分の口から漏れる。
「も…、オレ……」
「うんっ…、ええよっ……」
 きゅきゅっと、委員長のなかがきつく締めつけてくる。
「あ…あぁぁ……」
 高まった声が、脳髄の奥のあたりを刺激してくる。
 悲鳴のように、その声が、上りつめていった。
「…もう…あかんっ……、……って…まう………」
「……くっ………」
 抱きしめた身体が、腕の中で溶けていくような錯覚とともに。
 背筋と下腹部から、身体を震わすほどの快楽が沸き出してくる。
「あ……んっ…、あっ…あっ……ぁ……」
 委員長が、声を高く上げながら、反った身体をいっぱいに伸ばしていく。
「……ぁ……っ……」
 びくんと、身体を揺らしながら、先に達した。
「…ひゃうっ………」
 オレは最後の瞬間に、ずるりと、分身を委員長の中から引き出した。
 高まった気持ちをもたせたまま、入り口付近にすりつける。
「……ぁ…あぁ…………」
 びゅく、びゅくっ…。
 頭の中が真っ白になるとともに、白い液体が委員長の肌に落ちていった。
 全身から、力が抜ける。
 大きく上下する委員長の胸に顔をうずめて、身体を横たえた。
「…はぁ……、っはぁ……」
 速くなった胸の鼓動が伝わってくる。
 二人とも、息が上がっていた。
 委員長がけだるげに手を伸ばして、自分の上に吐き出されたものに触れる。
「なんや、ベトベト……する…」
「…そういうものだからな」
「……これ、藤田くんのなんやね。……嬉しいような、複雑な気分やわ……」
 痺れるような心地よさは、まだ少し残っていた。
 それを味わっていたくて、もう柔らかくなっていたものを、ぬるぬるのまま委員長の股
間に押しつける。
 じわりとした快感が生まれる。
「…ぁ……」
 びくっと、委員長が身体を震わせた。
「なんや……、まだ、足りへんのか?」
 ぽうっとした顔のまま、上半身を起こす。
 そのまま、ゆっくりと、顔を寄せた。
 くちゅ。
 濡れた擬音と、ぬらりと、暖かなものが触れる感触。
「ん……」
 委員長のくちびるが、小さくなっているとはいえ、オレのものを根元まで含んでいた。
「ちょ、ちょっと、委員長っ」
 痺れるほどの心地よさが、陰嚢の下からぞわりと沸き上がる。
 高めの熱を帯びた舌先が、オレのものを愛おしむようにゆっくりとなぞっていく。
 遠慮がちな指先が、その下の袋を優しく刺激してくれる。
 上目遣いにオレを見上げる顔が、たとえようもなく、いやらしく見えた。
 途端に、その、委員長の口の中にあったものが、大きくなる。
「…ふぁ……?」
 ちょっと驚いた顔をして、委員長は目線を落とした。
 動きを止めて、変化が収まるのを待つ。
「やっぱり、まだ足りへんみたいやな」
 いったん口を離した委員長が、くすっと笑う。
 そして、笑顔のまま顔を近づけて、もう一度含んだ。
 大きくなったオレの根本に指先を添えて、その行為に専念していく。
 それは、舌で舐めるだけの動きから、くわえたものを上下に動かす動きへと、徐々に変
化していった。
「あっ…あっ……、いいんちょっ……」
 あまりの気持ちよさに、声が漏れる。
 びくびくと、腰が、意識もせずに跳ねた。
 吸い出されるようなくちびるの感触と、丹念に舐めとっていく舌先の感触。
 混ざり合ったその二つの感触が、あっというまにオレを高めていく。
 じんと、痺れるように沸き上がってくる感覚。
 あまりにも早く、放出の予感が痺れるほどにオレを急きたてていく。
「や、やめっ……」
 気恥ずかしさと、それ以外の何かが混じり合ううねりの中で。
 オレは、委員長の口内に、精を放った。



「……はぁ…」
 委員長が、なにかをあきらめるかのように、ため息をついた。
「なんか、Hなことばかりしてる気がするんやけど……」
「気のせいじゃないことだけは、確かだな」
「「……はぁ…」」
 今度は二人揃って、ため息をついた。
 でも別に、嫌なわけじゃない。
 同じことを考えて、同じことを想っているのが、妙に嬉しく感じられた。
「…ま、ええけどな」
 委員長が、うつぶせになったまま身体を伸ばした。
「幸か不幸か、藤田くんはこういうの好きみたいやし、私も……その…、嫌いや…ないし」
 照れているような、喜んでいるような、曖昧な表情。
 オレには、それが委員長の不器用な愛情表現だっていうことも分かっていた。
 背中に、口づける。
「ひゃっ…、なんやの、もう……」
 そういって笑う智子の姿が、優しく見えて。
 甘酸っぱくて、幸せに思えた。
「それにしても…、藤田くんも朝から元気や……もう、呆れ……」
 言いかけた言葉が、途切れた。
 委員長が、何かを見たまま固まっている。
 視線の先にあるのは……時計?
「どうかしたのか、委員長?」
「…じ……」
 こくんと、喉が動く。
「時間……」
 ?
 視線の先を追って、時計を見る。
 ……。
「だああぁぁぁっ、学校はじまってるっ」
「もう、手遅れ、やね……」
 ぷっと、顔を見合わせて吹き出した。
「揃って遅刻か……なに言われるかなぁ」
「めっちゃ恥ずかしいわ」
 そう愚痴りながら、委員長はまんざらでもなさそうだった。
 オレも、なんとなく頬がゆるんでいくのを押さえきれない。
「噂に……なるかなぁ。揃って遅刻じゃ」
「なるやろな」
「イヤか? 委員長」
「……いややったら、こんなこと、してへん」
 それだけ言って、委員長は身を起こした。
 床に落ちていた下着を手早く身につけ、制服を腕に抱える。
「学校、行くんやろ?」
「行かないわけにはいかないだろうからな」
「せやったら、はよ行こ」
 少し真面目な、委員長の表情。
 いつもの調子が、戻ってきているようだ。
「なんなら、一緒に登校したっても……ええんやけど」
「手、つないで?」
「肩を抱いて、でもええよ?」
 いたずらっぽくオレを見ながら、くすくすと笑う。
 オレも、それに応えるように、笑った。
 全てのことが、なんだかさほどのことでもないように、おかしく思えてくる。
「よしっ、行くか」
「せやな。まぁ、あとはなるようになるやろ」
 委員長の指先に触れると、そのまま握り返してきてくれた。
 口だけでもなく、身体だけでもなく、想いが伝わっているのだと。
 ――そんな気が、した。





《終》






























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