『あゆの災難?』 〜 Kanon 月宮あゆ 〜




「ふむっ、ふぐぐぐぐーっ」
 じたばたばた。
 頭を押さえられて口をふさがれたあゆが、意味不明の言葉を叫びながら手足をばた
つかせる。
 一応恋人同士の二人がする口づけにしては、あまりロマンチックな雰囲気ではない
ような気がした。
 しばらく唇を合わせてから、あゆの頭を押さえていた手を外す。
「うぅ…ひどいよ祐一君」
 オーバーな身ぶりで身体を離したあゆが、泣きそうな顔で俺を見た。
「感動の再会シーンだからな」
「ボクと祐一君、昨日会ったばっかりだよ」
「そうだったか?」
「そうだよっ」
「でもな、あゆ」
「なに?」
「キスするときは、目はつぶるもんだぞ」
「そっちこそっ」
 どうして分かるんだ。…あ、そうか。
 よく考えたら、俺もつぶってなかったな。
「なにせ、いきなりだったからな」
「いきなりキスしてきたのは祐一君のほうだよ」
「…そうだったか?」
「そうだよっ」
「あゆが可愛かったからだな、きっと」
「…え?」
 はた目に見てそれと分かるほどに、一瞬であゆの顔が真っ赤に染まる。
「うぐぅ…祐一君、ずるいよ…」
「ずるくないぞ」
「そんな言い方されたら、怒れなくなっちゃうよ」
「そういうもんか」
「うぅ…絶対分かっててやってるくせに」
 じたばたと、あゆが暴れる。
「もう、祐一君のことなんか知らないもん」
 ぷうっと頬をふくらませて、あゆが拗ねた。
「…うぅ、あゆに嫌われた」
「えっ、あ、あのっ」
「そうだよな、俺みたいなやつなんか嫌われても当然だしな」
 わざと目線をそらして、ため息をつく。
 あゆが拗ねたときは、こっちも拗ねる(ふりをする)のが有効だ。
 …ちょっと卑怯な気もするが、構ってはいられない。
「ゆ、祐一君? ボク別に嫌ってなんか…」
 すぐに心配そうな顔でのぞきこんでくるあゆの頬を、両手の指で包み込む。
「ありがと、あゆ」
 ぷにぷにと、痛くしないように気をつけながら頬を触った。
「うぐぅ…やっぱりずるいよ…」
 まだ少しだけ赤い顔で、あゆが抗議の声を上げる。
「ま、そう拗ねるなって。季節がらたい焼きは無理だけど、なんか好きなものおごって
やるからさ」
「…じゃ、ソフトクリーム」
 ころっと表情を変えて、あゆが嬉しそうに告げた。
 こういう切り替わりの早さは、あゆのいいところなんだと思う。
 見ているだけで、回りを幸せにしてくれるからだ。
「食べすぎてお腹こわすなよ」
「祐一君が後悔するくらいいっぱい食べるから、大丈夫だよ」
「それが心配なんだって…」
 たい焼きみたいに袋いっぱいに買って、あとで食べるっていうわけにもいかないしな。
「よし、いくぞあゆ」
「うんっ」
 いつもの商店街へ向かう道の途中、あゆはいつにもまして楽しそうだった。



 屋台のソフトクリームに始まって、喫茶店のパフェからコンビニのたい焼きアイス
(あまりウケが良くなかったが)までたいらげ、あゆはすっかり上機嫌だった。
 正直、少し財布のほうにはきついコースだ。
 でもまあ、あゆのとびきりの笑顔を見ることができるのだから、たいした問題では
ないのかも知れない。
 そう、思えた。
 俺たちはひとしきり遊んだ(…というか、食べた)あと、公園で並んで腰を下ろす。
「もう、食えない…と思う」
「いっぱい食べたよね」
「ちょっと調子にのってつきあいすぎたかな」
「そう…かな? たい焼きならまだまだ食べられるよ」
 やっぱり、あゆは元気だった。
「…俺は遠慮しておくぞ」
「食べられるのに…」
「人には、超えられない壁というものがあるんだ」
「まるでボクが人じゃないみたいだよ」
「実際に食べられるかどうかはともかく、食い意地に関しては、そうだな」
「……そんなことないもん」
 少し考えて、あゆが否定した。
「いまの間はなんだ?」
「ちょっと考えただけだよ」
「自覚はあるのか…」
「うぐぅ、ボクぐらい普通だよ」
「まぁ、いいけどな」
 たぶん、誰に聞いても否定されるだろうけど、あえて追及しないことにした。
「そういえば、前から気になってたんだけど」
 声を落として、あゆの耳元に口を寄せる。
「なにが?」
「あゆのこと、俺の部屋で抱いた時」
「…うん」
 ちょっと恥ずかしそうに視線を落として、あゆがゆっくりと頷く。
「あの時のあゆは、小さいあゆだったよな」
「祐一君…そうやって言われると、まるでお魚みたいだよ」
「で、いまは大きなあゆ」
「…こう、よいしょって生まれた川を一生懸命のぼっていくんだよね」
 言ってる本人は、割と楽しそうだった。
「大きなあゆは、やっぱりはじめて…になるのかな?」
「うん…、たぶんそうだと思う」
 少し考えてから、あゆはもう一度頷いた。
「たぶんって…、分からないものなのか」
「気にしたこと…なかったもん。調べようがないと思うし…」
 そういうものなのか。
「…よし、試そう」
「ちょ、ちょっと待って」
 あゆが、慌てて俺の服を掴む。
 俺の言葉が、何を意味しているのかは承知している顔だ。
「嫌か?」
 わざとゆっくりと、尋ねる。
「い、嫌じゃないけど…その…、心の準備が…」
「一度やったことなのにな」
「うぐぅ…でも、やっぱり。あの時と今とじゃ状況が違うし、それにこういうことって
ムードっていうかそういうものが大事だと…」
 早口になって、少しだけパニックになっているようだった。
 頭にぽんと手を置いて、ゆっくりとなでてやるうちに、あゆは少しずつ落ち着きを取
り戻していった。
「ムードならあとで存分に出してやるから」
「それって、なんか間違ってる気がするよっ」
 ずるずるずる。
 抵抗するあゆの身体を引きずるようにして、家への道をたどり出した。
「どうしてもいやだっていうのなら、また別の機会にするけど」
 俺の言葉に、あゆの抵抗が少し弱まる。
「うぐぅ…」
 困ったときの顔で、俺のほうを見る。
「家に着くまで、ゆっくり考えてていいからな」
「…うん」
 あゆが、遠慮がちに腕をからめてくる。
 触れた腕からは、かすかな震えが伝わってきていた。



 自分で誘ったことではあるものの。
 いざとなると少し、照れ臭い。
 ベッドの上に並んで腰掛けたまま、あゆと俺はしばらくの間そのまま固まっていた。
 ちょっとしたことで壊れてしまいそうな、奇妙な緊張感の中。
 がちがちに緊張した顔で座っているあゆの頭を、ゆっくりとなでてやる。
「なんか、変な感じだな」
「うぐぅ、やっぱり心の準備が…」
「そんなに緊張しなくてもいいぞ」
 あゆが落ち着くまで何度でもなでてやるつもりだった。
 そのうちに少しずつ、あゆの表情が柔らかくなっていく。
「髪…伸びて良かったな」
 そのまま、髪にそって指先を下ろす。
 まだ少し短いけれども、まっすぐで綺麗な髪。
「うんっ。さすがにあの髪形だと…ちょっと」
「…四六時中、帽子かぶっているわけにもいかないからな」
 髪の先から、首筋の肌の上へと指先を滑らせた。
 感じる、柔らかな肌の感触。
「あゆの肌、手触りがいいよな」
 頬にあてた俺の手のひらに、あゆがためらうようにゆっくりと手を重ねた。
「やっぱり、嫌か?」
 少しの不安を感じながら、もう一度だけあゆに聞く。
「い、嫌じゃない…よ」
 真っ赤に染まった顔を隠そうともせず、あゆが小さな声で応えた。
「祐一君のこと、好きだもん」
 あゆのことをいとしく思う気持ちが、これまでよりも強く胸の中にひろがる。
 …好きになった女の子。
 そして、俺のことを好きでいてくれる女の子。
「あゆ…」
 名前を呼んで、ゆっくりと顔を近づけた。
 そっと、そのつややかな唇に触れる。
「んっ」
 少し、甘えの混じった吐息。
 頭の中で、それが弾けるように響く。
 目を閉じて、唇を合わせたまま、あゆの身体をぎゅっと抱きしめた。
 それは思ったよりも細く、それでいて柔らかく、女の子らしい丸みを帯びている。
 前よりも少女らしくなった体つき。
 不意に、甘いような切ないような、ほのかな香りが鼻の奥をくすぐった。
「ちょっとは成長してるんだな」
 顔を離し、瞳を見つめたまま、前に身体を重ねたときとは違う、少し大人びた身体
に触れる。
「うぐ…ちょっとじゃないよ。だいぶ成長したもん」
「でも、胸はあんまり大きくなってるように見えないぞ」
 ふこっと、柔らかなふくらみに、服の上から触れた。
「大きくなってないことはないと思うよ…」
 少し不満そうな、あゆの言葉。
「そうだな」
 その言葉通り、指先には確かな感触があった。
 それを手のひらに包み込むようにして、ゆっくりと動かしていく。
「んっ…」
 先端に指先が触れた瞬間、小さな声が上がる。
 あゆが、困ったような、少しほっとしたような笑みを浮かべながら、俺を見た。
「それに、いまは…くすぐったいだけじゃないから」
「…それは、触りがいがあるかもな」
「うん…きっと楽しいと思うよ」
 他人事のように語られているその胸を、確かめる。
 手を動かすたびに、ふうっと、あゆの口から切なげな息が漏れた。
「どう…かな?」
 不安そうに、あゆが俺を見る。
「これは…」
 ふにふにと感触を楽しみながら応える。
「?」
「寄せて上げるブラだな」
「違うよっ」
 あゆの反応は、妙に早かった。
 もしかして、気にしてるのか?
「しかも、ジェルの入っている新しいやつだ」
「うぐぅ…大きくなったんだよっ」
「なんかショックだ」
「ひどいこと言われてる気がするけど…もしかして、小さいほうがよかった?」
「いや、そういうわけじゃないんだが」
 別に特別な趣味はないと思う。
「あゆの胸ならどんな大きさでも好きだぞ。たとえ、全然なかったりへこんでたりしても」
「…なんか、複雑な気がするよ」
「ま、へこんではいないようでなによりだ」
「大きくなったのに…」
 不服そうなあゆを無視して、俺は指先にゆっくりと力を込める。
「大きさについてはいまのところよくわからないけど…柔らかくはなったかな」
「おんなじ大きさのまま柔らかくなったりはしないよっ」
「…まあ、そういうことかな」
 薄い布地の上から、指があゆの胸に沈み込んでいた。
「直接触るから…な」
 胸元のボタンを、一つずつ外していく。
 あゆは恥ずかしそうに顔を背けて、動く俺の腕に手を重ねていた。
 その下から、白い下着があらわになる。
「うぅ…やっぱり恥ずかしいよ」
「安心しろ…俺もそれなりに恥ずかしいから」
「祐一君は脱がされたりしてないのに…」
 ずるいよ、とあゆが頬をふくらませた。
「別に、脱がされてもいいんけどな」
「…あとでするもん。絶対だよ」
 すこし泣きそうな声。
 きゅっと、腕に触れているあゆの指先に力がこもった。
「俺なんか脱がしても、あまり楽しいとは思えないぞ」
 おでこをこつんと合わせて、見つめあう。
「きっと楽しいよ…」
 あゆから、目を閉じた。
 唇に、軽く触れるキスをする。
 あゆの首筋に顔を寄せて、そっと触れる。
 首筋に、頬に、そして唇に、何度となく唇を寄せた。
 その間に、下着を残して服を脱がせてしまう。
 上下お揃いの、白くて可愛らしい下着だけが、あゆの肌の上に残される格好になった。
「…脱がせる?」
 自分が着ている服を指さして、尋ねる。
「…うん」
 こくんと頷くと、あゆはためらいがちに、俺の服に手をかけた。
 少しずつ、俺が身にまとっているものを取り去っていく。
 時折指先が肌に触れるたびに、くすぐったいような心地好さが感じられた。
 しばらく、もぞもぞと二人で動いたあと。
「これで、おあいこだよっ」
 ぱしと、あゆが軽く背中を叩いた。
 二人とも、下着だけの似たような格好で向かいあっていた。
「まあ、同じような感じと言えなくもないな」
「…どう? 恥ずかしくなった?」
「いや、別に…」
 あゆを脱がせていたときのほうが恥ずかしかったように思う。
「うぐ、ずるい」
「とか言われてもこればっかりはな」
 でもまあ、恥ずかしいことにかわりはないだろう。
「全部脱がすぞ」
「ん…待って」
 あゆが背を向けて、恥ずかしそうに下を向く。
 首筋越しに見ると、顔から耳まで真っ赤に染まっていた。
 ブラのホックを外すと、あゆの柔らかそうな胸がふるんと震えた。
 綺麗な薄桃色の突起が、そのふくらみの頂点にちょこんと乗っている。
 後ろから身体ごと抱きしめて、ふくらみを手のひらに収めた。
「ここはすごく女の子らしくなったよな」
 耳元に顔を寄せて、ささやく。
 指先で触れると、それは少しだけ固く尖っていた。
 ふにふにと、指先で刺激してみる。
「…でもやっぱり、まだくすぐったいよ」
「そりゃ、そうだろうな」
 いきなり感度が良くなったりはしないと思う。
 それでも、俺はあゆの胸を触り続けた。
 全体に感じる柔らかさに、先端の微妙な硬さがアクセントを加えてくれている。
「……ぁ…」
 少しずつではあるが、あゆの声に時折甘いものが混じっていく。
 それが嬉しくて、さらに触れ続けていった。
「あゆの胸…ふかふかで、触ってて楽しいよ」
 ささやいて、耳たぶに軽く歯をたてる。
「ん…」
 ぴくんっと、あゆの身体が小さく触れる。
 胸からへその横をすぎて、脚の間へと指先を動かしていった。
「このへんは…くすぐったいか?」
 手のひらをももの内側に当ててゆっくりとさすりながら、あゆに聞く。
「…ううん」
 きゅっと目をつぶったまま、あゆが応えた。
「くすぐったくないよ。…なんか、触られてるとぞくぞくする」
 その言葉に嘘はないようだった。
 緊張していた身体から、少しずつ力が抜けていく。
 肌の上を滑っていく指先の感触が気持ちよかった。
 胸、腰、背中、首筋、脚、腕、お腹…。
 順番に、あゆの身体中に残らず触れていく。
「…ん……」
 あるところではくすぐったそうに、あるところでは切なげに、あゆが声を漏らした。
 しばらく、その反応を楽しんでから。
 そのまま、脚の付け根へと指先を動かした。
「あっ…祐一君……」
 あゆの、あまり濃くないしげみの中へと指を差し入れる。
 触れると、あゆのそこは少しだけ濡れていた。
 指先に、滑らかな感触が当たる。
「胸とか…気持ちよくなったのか?」
 小声で聞いてみる。
「うん…どこが、っていうわけじゃないんだけど、祐一君に触られてると、身体が浮かん
でるみたいな感じ…するよ」
 あゆが手を伸ばして、俺の首を抱え込んだ。
「好きだよ…祐一君のこと」
 そのまま、身体ごと引き寄せられる。
 胸の中に抱え込まれるような格好になっていた。
 少しだけ早い、あゆの心臓の鼓動が聞こえる。
 とくん、とくん…。
 決まったリズムを刻む音を聞いていると、なんだか安心できた。
「俺も好きだぞ、あゆ」
「うん…」
 幸せそうな笑顔。
「そろそろ…いいか?」
 耳元でささやく。
「うん、平気だよ」
 あゆが、けなげに微笑んだ。
 きゅんと、胸が切なくなる。
「んっ…」
 唇を合わせたまま、あゆの両脚の間に身体を割り込ませた。
「あ…」
 その内側に触れるだけで、あゆの身体が小さく反応する。
 あゆの指先が、触れている俺の腕をぎゅっと掴んだ。
「怖くないからな」
 安心させるように、頭をゆっくりとなでてやると、
「優しくしてくれるの分かるから、怖くはないよ。ちょっと…緊張してるけど」
 そういって、あゆは小さく笑った。
 自分のものが、痛いほどに屹立しているのがわかった。
 その先端で、あゆに触れる。
「…っ!」
 びくっと、あゆが身体をすくめた。
 口では言っても、やはり怖いのだろう。
「身体の力、抜いて…」
 あの時と同じように、あゆの身体を抱き寄せた。
 少しずつ、腰を進めていく。
 先端が、ぬるりとした暖かな感触に包まれていった。
 そのきつく狭い中に、進んでいく。
「…う…」
 あゆが、痛みを耐えるように、右手の指を噛んだ。
 その切なげな表情が、いとおしく思える。
「あゆ…」
 声をかけながら、できるだけゆっくりと中へ入っていった。
 ぷつんと、何かを破るような感じ。
「…うぐ…」
 その瞬間にきゅっと目を閉じたあゆの頭を、俺は優しくなでた。
「好きだよ」
「…うんっ」
 一番奥まで、あゆの中に埋まる。
 あゆの中は、きつく、それでいて柔らかく、俺を包み込んでくれていた。
「…はぁっ…」
 あゆが、大きく息をついた。
 何度か、ゆっくりと息を吸ったり吐いたりを繰り返す。
 その動きに合わせて、あゆの中にある俺のものがわずかに刺激された。
 あゆの微妙な動きだけで、十分すぎるほどに高められていく。
「…ん……」
 声を出した俺を、不思議そうな顔で、あゆが俺を見上げた。
「…いや、ちょっとあゆのなかが気持ち良すぎて困ってた」
「ずるいよ。ボクはすごく痛いのに…」
「ごめんな」
「でも、うれしい…かな」
 かすかに涙をのこした顔のまま、あゆが幸せそうに笑う。
「こうしてると、祐一君が、ボクの中にいるのがわかるんだよ」
 きゅっと、あゆがしがみついてくる。
「それで、ボクで感じてくれてるんだって思うと、嬉しくなるんだ」
 耳元で、あゆの言葉が優しく響く。
「ボクのこと、好きでいてくれてるの、わかるから」
「ありがと…」
 なんだか、泣けそうになってくる。
 俺は、腕に力を込めて、あゆの身体を抱きしめた。
 そうすれば、身体を一つに溶け合わせることすらできそうな気がした。
「祐一君…?」
 黙り込んだためか、あゆが心配そうに俺の名前を呼ぶ。
「…ごめん。なんか嬉しくて、泣きそうになってた」
 その言葉のあと、あゆの身体をもう一度抱きしめた。
 あゆが、手を伸ばして、俺の頭を優しくなでてくれる。
「逆だろ、普通は」
「…ううん、これでいいんだよ」
 指が、何度となく頭の上をいきかう。
「しばらく、このままでいてもらってもいい?」
「ああ」
 つながったまま、俺たちはお互いの身体を抱きしめて、動かずにいた。
 指先で相手に触れたり、頬を寄せたり、キスをしたり。
 じゃれあうことで、心を寄せ合っていく。
「ん…と、そろそろ…いいよ」
 あゆが、おそるおそるといった感じで、俺に告げた。
「だいぶ、平気になってきたから。動いても」
「やめてもいいぞ?」
 最後までいかなくても、もうこうしているだけで充分だった。
 でも、俺の言葉に、あゆはゆっくり首を振った。
「祐一君が気持ち良くなってくれれば、ボクも嬉しいから」
 笑ったまま、そう告げる。
 それが本心からの言葉であることは、明らかだった。
 胸の中が、切なくなる。
「なるべく、負担かけないようにするからな」
「うん…ありがと、祐一君」
 俺のためにつらい思いをしているあゆを、できるだけいたわるように。
 少しづつ、少しづつ…。
 ゆっくりと動きはじめた俺の動きに合わせて、あゆの身体が小さく揺れる。
 形のいい胸が、その揺れに合わせてふるふると揺れていた。
「んっ…」
 なにかを押し殺した声が、時折あゆの唇から漏れる。
「あゆっ…」
 健気なあゆのしぐさと、あゆの身体が与えてくれる心地好さ。
 そのふたつが、あっという間に最後の高みへと導いてくれた。
 一番奥までつながった状態で動きを止めて、あゆの身体をきつく抱きしめる。
「…あっ」
 きゅんと、あゆの中が軽く締まるのを受けて、はじけた想いをあゆの中へと放った。
「あゆ…あゆっ…」
 まるで、なくなってしまうなにかを抱きしめるかのように。
 俺はそのまま、あゆの身体を抱き続けていた。
「祐一…くん……」
 しがみついてくるあゆのぬくもりを感じながら。
 あゆのことを好きな自分を感じながら。
 つながったままで、ずっと…。



 乱れたシーツのかかった、ベッドの上。
 ひとつの毛布にくるまって、並んで座る。
 あゆがもたせかけてくる頭のわずかな重みと、触れている肌の暖かいぬくもりが、今の
俺にはなによりも大切に思えた。
「祐一君…」
「なんだ、あゆ」
「こうしてると、あったかいね」
「そうだな」
「二人でこうやっていれば、きっとどんな寒い日でも平気だよ」
「けっこう動くし、あったかくなるかもしれないな」
「…祐一君、もしかしていやらしいこと考えてる?」
「あゆが相手だからな」
「うぐぅ…やっぱりずるいよ」
 腕にしがみついてくるあゆの頭を、ゆっくりとなでてやった。
 あゆは目を閉じて、気持ちよさそうにそれを受け止めてくれる。
「そういえば…さ」
「なに?」
 あゆが、ちょこんと座りなおして俺を見た。
「あゆもそれなりに大きくなったことだし、あこがれの名雪の制服だって着られるだろ」
「それがね…この間、名雪さんに借りて一度だけ着てみたんだけど…」
 だけど?
「…胸がきつかった」
「わはははっ」
「って言ったら複雑な表情をしてた」
「まあ、まさか名雪もあゆに追い越されようとは思ってなかったんだろう」
 つうっと、胸のラインに添って、指を這わせた。
「…ひゃんっ」
 飛び上がったあゆが、声を上げる。
「うぅ、祐一君…不意打ちなんて…ずるいよ……」
 よほど驚いたのか、胸に手を当てて深呼吸をしていた。
 名雪に勝った胸のふくらみが、それに合わせてゆっくりと揺れている。
「まあ、あれだ。名雪を追い越した罰にだな…」
「うぐぅ」
 枕を抱えて、あゆが警戒の姿勢をとる。
 ちょっと鋭いぞ、あゆ。
「もっと大きくなるようによく揉んでやろう」
「ぜんっぜん、罰になってないよ」
 迫る俺の指先を避けて、あゆが後ずさる。
「不意打ちはずるいって言ったから、今度は予告したぞ」
「ずるくはないけど、嫌だよ…」
 じりじりと動いていたあゆが、ベッドの端までたどり着いた。
「ふ、服着てなにか飲み物もらってくるね」
 逃れようと、身体を横にずらした瞬間。
「きゃっ」
 身体に巻き付けた毛布に足をとられて、あゆは思いっきりうつ伏せに倒れた。
 床に顔から落ちたぞ、いま。
「大丈夫か、あゆ」
「ん…ハナ打ったよぅ」
「…いろいろ見えてるぞ」
 下半身だけがベッドの上に残り、むき出しになったお尻を高く上げたような格好に
なっていた。
 目の前に、あゆの大切なところがさらけ出されている。
 そこは少し赤く腫れて、血がにじんでいた。
 まだ、濡れた感じが少しだけ残っている。
「うぐぅ…見ちゃダメだよ」
 手を回して、あゆがお尻の後ろを隠した。
 あゆに対するいとおしさと、軽い興奮が頭の中に沸き上がる。
「隠されると見たくなるだろ、やっぱり」
「…隠してなくても見るくせに」
 読まれているらしい。
「可愛いし、綺麗だからな」
 上からおおいかぶさるようにして、あゆの身体を抱く。
「うぐぅ」
 あゆが、逃れようと少しだけ抵抗した。
 触れた肌が、暖かい。
「あの…祐一君の、当たってるよ」
 その言葉通り、また大きくなったものが、あゆの太股に後ろから当たっていた。
「…あゆのいやらしい格好見ていたらこうなったみたいだな」
「うぅ、わざとじゃないのに」
 この場合は、結果がすべてだと思う。
「もう一回…いいか?」
「…えっ?」
 あゆは、少しためらったあと、恥ずかしそうに顔を背けながらゆっくりと頷いた。
「…いい…よ」
 身体を前に倒して、横から唇を奪った。
 少しだけ舌を差し入れると、あゆも遠慮がちに舌を絡めてくる。
 そして、唇を合わせたまま、後ろからゆっくりとあゆを貫いた。
「…ふっ……んむ…」
 あゆの、ちょっとだけ苦しげな声が漏れる。
「…んはぁっ」
 唇を離したとたん、あゆが大きく息をついた。
 少し焦点の合わなくなった瞳で、ぼんやりと俺を見る。
「あゆのなか…気持ちいい…」
 奥に押しつけるようにしながら、ゆっくりと動きはじめた。
 さっきまでの行為の残りか、すぐに濡れた音が結合部から響き始める。
 ちゅくちゅく、ぢゅく…。
 大きな音をたてながら、俺はその行為に没頭していった。
 しばらく同じ動きを繰り返してから、少しずつ動きを変えていく。
「…あ…」
 身体を縮こまらせたあゆが、声を漏らした。
「あっ…祐一君……」
 入り口の近くを刺激する動きのときに、少しだけ、あゆの声のトーンが変わった。
「あゆ…痛いのか?」
「う…ううんっ……」
 あゆは、懸命に首を振って否定した。
「…い…いいよ……気持ち…」
 せわしげに、あゆが息を継ぐ。
「…んっ……はあっ…」
 優しくこするたびに、あゆが高い声を上げる。
 それを逃さないように、同じ動きで何度もあゆを刺激していった。
「身体の中が…ふわってする感じ…だから……」
 あゆの指が、俺を捜してシーツの上を何度となくいきかう。
 それを上から包むようにして、しっかりと握ってやった。
「どこにも行かないから、大丈夫だぞ」
 指を絡めたまま、首筋に口づける。
「うん…」
 不安げなあゆが、申し訳なさそうに言葉を継いだ。
「あの…できれば……その、前から…してもらったほうが…」
 ちょっと困った顔で、俺を見る。
「あ…ごめんな」
 つながったまま、あゆの身体を横に転がして、正面から抱き合う格好に移した。
 あゆが、見て分かるほどにほっとした顔つきになる。
「こっちのほうが、好きだよ」
 俺の背中に、あゆが手を回した。
「祐一君の身体、抱いていられるから」
「そうだな」
 俺も、あゆのことをぎゅっと抱き返してやる。
 しばらく抱き合ったあと、もう一度、動き始めた。
 先ほどまでと同じように、入り口の近くを刺激するように気をつけながら、身体を
動かす。
 その刺激にも、あゆの身体は軽く跳ねて反応した。
 その度ごとに、きゅっと、あゆが俺のものを締め付ける。
「…ん……やっ…」
 切なげな声が聞こえるたびに、頭の中があゆのことでいっぱいになっていった。
 包み込まれる感触を感じながら、何度となくその中を前後する。
 ぬめるあゆの中は、俺を逃すまいとするかのように絡みついてきていた。
 すぐに、限界がやってくる。
「あゆ…もう…」
「祐一君…そのまま……で…いいから…」
 うわ言のように、とぎれとぎれの言葉。
「…ボクの中で……」
 きゅっと、あゆが俺にしがみついた。
 俺も、夢中で抱き返す。
「あ……はぁ…」
 ひときわ高い声とともに、あゆが身体を震わせた。
 同時に、あゆの締めつけがそれまでよりも強くなる。
「うわっ…」
 びゅく、びゅくっ…。
 その瞬間、身体が震えるほどの歓喜とともに、あゆの中に放っていた。
「…あぁ…ん…ん……」
 俺のものを受けて、あゆの身体がさらに小刻みに震える。
 最後のものを出し尽くすまで、俺はゆっくりと身体を動かした。
「……ゆういち…く…」
 濡れた瞳で見つめながら、あゆが俺の名前を呼ぶ。
「…いっちゃった…みたい」
 くすぐったそうに身をすくめながら、少し苦しそうな息をつく。
「いっしょで、よかったな」
「…うん」
「しかし、すごい汗だ」
 お互いに、全身汗でびっしょりだった。
 首筋に張りついた髪を指先ではじくと、あゆがぶるっと身を震わせる。
「…ん…さわっちゃダメだよ」
「くすぐったいのか?」
「うん。ちょっと…敏感になってるみたい…だから…」
 その言葉通り、背筋にそって指先をはわせるだけで、あゆの身体が跳ねた。
「…だ、ダメ……だってば…」
 きゅっと胸にしがみついてあゆの身体が、小刻みに揺れる。
 しばらくそのままの格好でいたあと、あゆが顔を上げた。
 目の端に、涙を浮かべている。
「…いじわる」
「反応が可愛いから、つい」
「祐一君、そればっかりだよ…」
「本当のことだからな」
「うぐぅ…」
 二人で、何も身につけないまま、また同じ毛布にくるまった。
 触れたところから感じるぬくもりと肌の感触が、心地いい。
「どうだった?」
「最後のほうは…気持ちよかったよ」
 俺の問いに、まくらに顔を埋めたあゆが、恥じらいながら答える。
「細かいとこまでは、よく覚えてないけど」
「大丈夫だ、俺は一生忘れないから」
「うぐぅ…忘れちゃ嫌だけど、忘れて欲しい…」
 あゆが、よく分からないことを言う。
「まあ、痛いだけでなくてよかったかな」
「うん…」
「これからの楽しみもできたことだし」
 あゆが、ちょっとだけ身構えた。
「も、もしかして祐一君…まだするの?」
「…さすがに、もう今日はちょっと…。あゆがしたいんならつきあうけど」
「うぐ…ボクはまた今度のほうが」
 間髪を入れずに、あゆが否定する。
「ま、別に焦ってるわけじゃないからな」
「やっぱり…ちょっと変な感じするし。もう、そんなに痛くはないけど」
 もぞもぞと、あゆが身体を動かした。
「まだなにか挟まってるみたい…」
「よくそうやって言うけど、やっぱり本当なのか?」
「うん。異物感っていうか、そんな感じがするよ」
「ありがとな、あゆ」
「…どうしたの?」
「はじめてを、二回も俺にくれて」
 あゆが、一瞬きょとんとした顔をして、それから柔らかく微笑んだ。
「ボクも、お礼言わせてもらっていい?」
「お礼?」
「二回ももらってくれて、ありがとうって」
「…感謝されるのも変な気分だけどな」
「でも、はじめてを好きな人にあげるのって、すっごく嬉しいんだよ」
 恥ずかしいのか、まくらに顔をうずめながら、あゆが小さな声で告げる。
「痛くても、恥ずかしくても、だからそうしたいって思うんだよ、きっと」
「…そうだな」
 照れくさくなって、言葉を探せないまま、俺は今日何回目かのキスをした。



 それからあと、少しだけ、二人だけの時間を楽しんでから。
 日も落ちかけていたので、あゆを送るために、玄関へと向かう。
 下におりていくと、秋子さんが台所で夕食の支度をしていた。
「あら、あゆちゃん来てたの?」
「お邪魔してます」
 あゆが、少しぎこちなくあいさつをした。
「……?」
 秋子さんが俺たち二人を見て、少し考えるように首をかしげた。
 でも、すぐにいつもの表情に戻って優しく微笑む。
「せっかくだから、晩ご飯を一緒に食べていかない?」
「…いいんですか?」
 嬉しそうに、あゆがはしゃぐ。
「いいに決まってるじゃない。それに…」
 あゆと俺、二人の姿を見て、言葉を続けた。
「こういうことは、お祝いしなくちゃ。ね?」
 秋子さんの言葉に、先ほどのちょっとした間のわけを知る。
 どうやら、俺たちの仲は秋子さん公認になったようだった。
 あゆは真っ赤になって、俺は苦笑をしたまま。
「はいっ」
 俺たちは、二人同時に返事をした。




《終》

















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