『雨の夜に、晴れた朝に』 〜 To Heart 保科 智子 〜




 オレの前で、音を立てて扉が閉まった。
 ――委員長が、雨の中へと出ていった音だ。
 …自分の家へと帰るために。
「泊まって…いかないか?」
 そのひとことを言うことが、オレにはどうしてもできなかった。
 このまま委員長を帰したくない。…そう感じたのは、まぎれもない事実だったのに。
 だけど…オレには迷いがあった。
 傷ついている彼女の、弱みに付け込むような真似をしたくない。
 ただそれだけの理由で、オレは妙な意地を張ってしまった。
 今夜いっしょにすごすことを、オレも、そして、おそらくは委員長も望んでいたはずなのに。
 扉を開けて出ていくときの、委員長の寂しそうな瞳が、頭にこびりついて離れなかった。
 情けない自分に、涙が出そうだった。
 やるせない想いを吐き出すように、扉に向かって、オレは拳を叩き付けた。



 ──どれほどの時間がたったのだろう。
 気がつくと、雨はまだ降り続いていた。
 単調な雨音が、静寂の中に途切れなく響いている。
 脳裏に、さっきまで部屋にいた委員長の姿が浮かんだ。
 男物のシャツを着て、風呂上がりの濡れた髪をとかす委員長。
 すそから無防備にさらけ出され、ほんのり桜色に染まった素足の肌。
 …その身体からは、石けんの匂いがかすかに漂っていた。
 冷静に考えると、よく流されなかったものだと思う。そんな姿の、しかも惚れた相手が、
自分の部屋のベッドの上にいたっていうのに。
 オレは、委員長のことが好きだ。
 たぶん、委員長もオレのことを好いてくれているんじゃないかって…思う。
 いつも、意地っ張りな二人。でも、お互いが素直になれる瞬間っていうのもあるだろう。
 もしかしたら、さっきのオレたちがそんな状態だったのかもしれない。
 意地を張らない、素直な気持ちでいられた時間。
 …二度と手に入らないかもしれない、貴重な二人だけの時間。
 その、失ってはならない時間を、失ってしまったのかもしれない。
 そう考えると、自分のこだわりがなんだか妙に滑稽に思えてきた。
 …後悔が、オレの心を包んでいた。
 もう、今頃は電車に乗った頃だろうか。
 ──委員長のことを思っているうちに、オレはいてもたってもいられなくなってきた。
 部屋に置いてある、時計を見る。時計の針は、委員長との別れから三十分ほどたったことを
示していた。
 オレは、それを横目で見ながら部屋を飛び出していた。
 もう間に合わないかも知れない。…いや、たぶん間に合わないだろう。
 そんなことくらい、オレにも分かっている。
 でも、何もしないではいられなかった。
 可能性が、ほんの少しでもあるのなら。
 委員長に会いたかった。
 追って、心を伝えたかった。
 委員長のことを思うだけで心が高まっていくのが、いまならはっきりと分かる。
 オレは雨水が染み込んだままの靴を急いで履くと、扉を…開けた。
 空を見上げる。
 暗やみの中で、雨は変わらず降り続いていた。
 傘もささずに、オレはその中へと飛び出した。



 パシャパシャ…パシャ。
 水たまりを踏む音が、足元で響く。
 顔に叩き付けられる雨粒が、髪を伝って落ちていった。
 水気を吸って重くなった服が、全身に張りついている。
 走り続けてきたせいか、息が上がっていた。
 ばくばくと、心臓が音を立てている。
 オレは、あの公園の前にいた。
 さっきまでの出来事が、まるでずいぶん前のことのように感じられた。
 一息ついて、オレはゆっくりと公園の中へと足を踏みいれた。
 ここを通っていけば、駅へは、あと少しだ。
 急ぐ心を押さえつけながら、息を整える。
 終電は、まだ出ていないはずだ。
 …きっと、会える。
 家を出たときとは違い、オレはそんな予感めいたものを感じていた。
 ふたたび、オレは駆けだした。
 雨が、濡れた髪を張り付かせ、視界を狭めていく。
 ただ一つの目的だけを胸に、オレは全力で走っていった。
 しんとした、闇の静寂の中に、オレの走る足音だけが響いていく。
 ぽつり、ぽつりと立つ街灯が、闇に降る雨の中に、ベンチを浮かび上がらせていた。
 そのひとつに、オレは見覚えがあった。
 委員長が、オレを待っていた場所だ。
 オレと委員長の心が、触れあった場所。
 そこに、人影が見えた。
 ──!?
 ゆっくりと、オレは近づいていった。
 まるで、夢のような気分だった。
 そこには、委員長の姿があった。
 傘をさし、うつむきながらたたずんでいる。
 その姿は、母親とはぐれてしまった子供のように、さみしげに見えた。
 オレは、ゆっくりと近付くと、傘の中をのぞき込むようにしながら声をかけた。
「…いいんちょ?」
 嬉しさと同時に、なぜこんなところに…という疑問の念が、オレの中で激しく渦を巻いた。
 委員長は、もうとっくに家に着いていてもおかしくない時間だ。
 どうして、その委員長が――?
「──藤田くん?」
 委員長が、伏せていた顔をゆっくりとこちらへ向ける。
 その顔は、濡れていた。
 …雨粒ではない。瞳からあふれた、大粒の涙で。
「どうして、こんなところに…」
 考える間もなく、オレは委員長に訊ねていた。
「帰ろう、思ったんや…思ったんやけど…」
 委員長が、オレの濡れたシャツを指でつかむ。
「このまま帰ってしまったら、後悔するて思って…そう思ったら、なんか帰りたくなくなって…
気がついたら雨の降るのを、ここでぼうっと見つめてたんや」
 指先に、力がこもる。
 オレの服をつかんだ指先は、わずかに震えていた。
「…藤田くんが来てくれたらええのにとか、身勝手に思ってた。おかしなもんやね。誰にいわれた
わけでもない、自分で、藤田くんの家から帰ろうって思って、その通りにしてきたのに。それを
自分で否定してたんやから」
 ぽつり…ぽつりと、委員長の形の良い唇から言葉が紡ぎ出されていく。
「そんな身勝手な女、藤田くんが気にしてくれるわけない。来てくれるわけないのに…でも来て
くれたらええのにって、自分勝手にそう思ってたんや」
 委員長の両手が、オレのシャツを握りしめた。
 …支えをなくした委員長の傘が、くるくると回りながら地面へと落ちる。
 大粒の雨が、見る見るうちに委員長の服を濡らしていった。
 オレは涙で濡れた委員長の頬を、指先で優しくなでてやった。
 もう、二人の間に言葉はいらなかった。
 うつむいた顔を少し上向きにして、そっと唇を触れ合わせる。
 冷えた唇が、妙に暖かく感じた。
 腕で身体をきつく抱きしめながら、オレたちは長い長いキスをした。
「オレは来たぜ、委員長。…いや、智子」
 唇を放して、委員長の名前を呼んだ。
 頬を寄せるようにして、ふたたび身体を引き寄せる。
 雨に打たれて冷えかけた身体が、オレの腕の中に収まった。
 委員長が、いとしかった。それまでに感じていたわだかまりが、全部吹き飛んでしまうほどに。
 想いをぶつけるように、背中に回した腕に力を込めた。
「…あのまま、いい友だちのフリして帰りたくなかった。藤田くんに、抱きしめて欲しかったんや。
好きや言うて欲しかった。一緒にいて欲しかった…」
 委員長が、それに応えるようにそっと背中に手を回した。
 その指先から、震えが伝わってくる。
「ごめん、待たせちまって」
 オレの口をついて出たのは、謝罪の言葉だった。
「うん…ええよ。藤田くん、来てくれたやんか」
 ぱっと明るい表情になった、委員長が言う。
 微笑む委員長に、オレはもう一度キスをした。
 しばらく唇を触れ合わせ、そっと離す。
 濡れた髪に、手を触れた。
「このまま雨の中にいたら、身体に…よくないぜ。うちに来ないか、委員長」
「…そうやね。終電も、もう出てしもた時間…やと思うし。お邪魔、させてもらう」
「よし、決まり」
 落ちている傘を拾って、委員長にさしかけた。
 ──すでに二人ともずぶ濡れだったが、ないよりはましだろう。
 髪の毛の先から雨滴を垂らしながら、委員長が微笑んだ。
 濡れた肩に手を回す。
 いたずらっぽく笑う瞳を見つめているうち、二人の心が通じあっていることが分かった。
 そのまま、身体を寄せあって、オレたちは歩き出した。



 家に着いてから、もう一度シャワーを浴びて身体を乾かすことにした。
 委員長を先に入らせ、待っている間にとりあえずタオルで濡れた身体を拭き、新しい服に着替える。
 委員長のための着替えを出して、オレは浴室の外から声をかけた。
「委員長…着替え、ここに置いておくから」
「うん…」
 浴室の中にこもった声で、すぐに返事が返ってくる。
「藤田くん…あの…」
 なにか言いたげに、委員長が口ごもった。
「どうかしたのか?」
「…ううん。なんでもない、すぐ上がるから。藤田くんもはやく入らんと、風邪ひいたらあかんし」
「ああ。じゃあ、キッチンのほうにいるから、出たら声をかけてくれよな」
 明るく言って、オレはその場をあとにした。
 ただそれだけのことで、オレの心臓は爆発しそうなくらいに早く鳴っていた。
 委員長の一瞬の沈黙の意味を、意識してしまう。
 しばらくして、髪を拭きながら出てきた委員長と入れ代わりに、オレもシャワーを浴びた。



 部屋に戻ると、オレのシャツを着た委員長が、ベッドの上に腰掛けていた。
 所在なげに、床に伸ばした足をぶらつかせている。
「雨に打たれるの好きだよな、オレたちも」
 苦笑しながら、声をかけた。
「…藤田くんと一緒やったら、また…やってもええかもな」
 委員長が、そう言って恥ずかしそうに目を伏せる。
 お互いに言葉を失った、妙な気恥ずかしさをともなった沈黙が、部屋の中に流れていく。
 少しの躊躇の後、オレは手を伸ばして委員長の肩に触れた。
 びくっと、委員長の身体がそれに反応して揺れる。
 安心させるように軽く肩を叩いて、隣へと腰掛けた。
「委員長…」
 手を伸ばして、委員長の髪に触れた。
 少し濡れたままの、長く、綺麗な髪。
 指先で、柔らかい髪をゆっくりと梳く。
 ふわっと、気持ちのいい匂いが広がった。
「委員長の髪、石けんの匂いがする…」
 耳元に顔を寄せながら、その香りを胸の奥まで吸い込んだ。
 同時に、頭の芯がしびれそうな感覚に襲われる。
「藤田くんとこにあったシャンプー、使わせてもろたから」
 少し恥ずかしそうに、委員長が応えた。
 そのまま、髪をなでているオレに身をまかせる。
 目を閉じた、心地好さそうな表情を見ているうちに、オレはたまらなくなって委員長の身体を
抱き寄せていた。
「きゃっ」
 委員長が、短く声を上げた。
 ちょっと甘えの混じった、可愛らしい声。
 少し身体を硬くして、上目づかいに委員長がオレを見る。
 メガネごしに見える綺麗な瞳が、少しだけ潤んでいるように見えた。
 とくとくと、腕の中にある委員長の身体が鼓動を刻んでいく。
 涼しい部屋の空気に触れて、少しだけ冷たくなった肌をオレたちはそっと触れあわせた。
「委員長…服、いいか?」
 それだけしか言わず、オレはシャツのボタンに軽く手をかけた。
「…うん。ええよ」
 ほんの少しのためらいの後、視線をそらすようにしながら、委員長が小さく頷く。
「でも、できたら明かり…消して」
「…ああ」
 オレは立ち上がると、蛍光灯のスイッチに触れた。
 目の前が、闇に染まる。
 カーテンの隙間から差し込む戸外の明かりが、わずかに部屋の中を照らしていた。。
 うっすらと、委員長の着ているシャツが白く浮かび上がる。
 明かりの落ちた室内で、少し湿気の残る髪をなでながら、オレはゆっくりと委員長の服をはだけていった。
 暗やみの中で、委員長の豊かな胸があらわになっていく。
 下着を付けていない、柔らかなふくらみ。
 オレは、委員長の首筋に軽く口づけた。
 そのまま、唇をすべらすように下へと降ろしていく。
 鎖骨のくぼみ、胸の谷間…それから、少し横へずらしてふくらみの上へ。
 薄桃色の突起が、オレの舌先に触れた。
「あっ…」
 きゅっと目を閉じたままの、委員長が可愛らしい声をあげる。
 そのまま、舌先でつつくようにして、その先端を刺激していった。
「委員長…ここは、気持ちいい?」
 あいた手のひらで胸全体を包み込みながら、オレはそのふくらみをゆっくりと揉みしだいていく。
「気持ち…ええよ。藤田くんが触るところやったら、…たぶん、どこでも」
 胸に添えられたオレの手に、そっと触れるように手を重ねながら、委員長が吐息を漏らした。
 言葉通り、指や肌が触れ合うたびに、委員長は切なげに何度も声を漏らした。
 その声を聞いて、オレの気持ちも切なく膨れ上がっていく。
「いいんちょ…」
 もどかしい気持ちを吐き出すように、きゅっと、委員長の柔らかい身体を抱きしめる。
「あ…藤田くん…」
 はふっと、少しだけ苦しげに、嬉しそうな息を委員長が吐き出した。
 そんなしぐさが可愛く思えて、腕いっぱいにぬくもりを感じながら、オレは委員長の背中に指を這わせた。
 びくっ。
 少し指を動かしただけで、委員長の体が大きく跳ねる。
 そのまま背骨に沿わすようにして、オレはゆっくりと指を動かしていった。
「あ…あかん……そんなとこ触ったら…」
 色っぽい声を出しながら、小刻みに身体をふるわす委員長。
 暗闇が、オレの、そして委員長の、心の垣根を取り払っていた。
 オレは、いたずらをする子供のようにわくわくしながら、さらに委員長の肌に指先を滑らせた。
 触れるか触れないかのところを、ゆっくりと、うぶ毛の感触を感じながら動かしていく。
「どこでもって…言ったよね、委員長」
「言うたけど…そこは…あかんっ。気持ちよすぎて…おかしく…なってまうっ」
 はあっ、はあっと、委員長が荒い息を吐く。
 上気した肌。オレを見る瞳は、ぼうっと潤んでいた。
 その瞳に吸い込まれるように、オレは顔を近づけた。
 はあっ、はあっ、はあっ。
 激しく上下する胸に合わせて、委員長が息を吸い込もうとする。
 それを妨げるように、荒く息をつく唇に、自分の唇を重ねた。
「好きだよ…委員長」
 瞬間のキスの後、肌が触れ合う感触を求めて、オレは腿を委員長の両足の間に滑り込ませた。
 その瞬間、滑らかな肌が合わさる感触が、全身に広がっていくような錯覚を覚えた。
「智子──」
 背中に手を回して、抱え込むように委員長の身体を抱く。
 お互いの体温が、混ざりあうように溶けあっていた。
 身体を密着させ、頬を触れ合わせる。
「藤田くんの身体…あったかい」
 ほうっと、息をつく音がする。
 耳元で、委員長の声が聞こえる。
「こうして抱かれているだけで…藤田くんの心が伝わってくるような感じがする…優しいぬくもり…」
 委員長の心臓の音が、とくん、とくんと響いていた。
 身体の中が熱くなってくる。
 腕の中にある、一糸まとわぬ委員長の裸身が、オレの欲望に火を付けていた。
 ひとつになりたい。
 委員長と…したい。
 オレは、むき出しになっている委員長の内ももに手のひらを当てた。
 外気にさらされてひんやりとした肌の感触を、触れあった肌に感じていく。
 ぴくんと、委員長の身体が反応した。
 もじもじと、両方の足をすりあわせるようにして、オレの手を挟み込む。
 まるで、何かを恐れているように。
「いくよ、委員長」
「…うん。…藤田くんっ」
 声とともに、委員長はオレにしがみついてきた。
 ちゅっ。
 先端に感じる、濡れた感触。
「ふぁうっ」
 委員長が、オレのものが触れた感覚に反応して、声を上げる。
 オレは、ゆっくりと自分自身を擦りつけるようにして、委員長の反応を確かめた。
 さわっ、さわっ。
「あっ…あっ…」
 すりっ、すりっ、すりっ。
「ひゃっ…はうっ…あぁんっ」
 委員長の、可愛い声。
 オレを、感じている声。
 それが、部屋の中に響き渡る。
 くちゅっ。
 今度は、いやらしい音が耳まで届いた。
 思わず顔を上げると、真っ赤な顔の委員長と目があった。
 オレを見る、切なげな瞳。
 その瞬間、頭の中が真っ白になった。
 身体が、オレの意志を離れたかのように動いた。
 ずぶぶ…ずぶぶぶぶ…。
 少しずつ、少しずつ、委員長の中へと、オレのモノが入っていった。
 ぬめりとした感触と、わずかに感じる抵抗感。
 熱い、弾力性のあるなにかに、包み込まれるような感じ。
「…い、痛ッ」
 悲鳴に近い声を、委員長が上げる。
 整った顔立ちが、苦痛に歪んでいた。
「大丈夫か、委員長?」
 思わず、言わずもがなの問いかけをしてしまう。
 大丈夫のわけがない。生まれて初めて、異物を体の中に迎え入れているのだから。
 だが、委員長は気丈に微笑んで、
「大丈夫…これくらい、大丈夫やから…」
 そう答えた。
 薄く開かれたまぶたの横には、光る雫が溜まっている。
 言葉とは裏腹に、その声は震えていた。
「しばらく、このままでいるから…」
 深くつながったまま、委員長の身体を抱きしめる。
「うん…」
 委員長の両腕が、オレの首を抱え込む。
「藤田くんが入ってきてるの…分かるよ」
 近づいた耳元で、委員長の声がする。
「痛みより…そのうれしさのほうが、強い…かな」
 きゅっと、委員長が腕に力を込めた。
「心配せんでも…ええよ。藤田くんのすることなら、全部…気持ちいいって言うたやろ?」
 綺麗な瞳で、委員長がオレを見る。
「もっと…滅茶苦茶にしてくれても…たぶん」
 どきん。
 身体の中で、心臓が跳ね上がった。
 委員長のことが、いとおしいという気持ちが、これまでにも増して高まっていく。
 奥深くまでオレを迎え入れたままの委員長を、オレは抱きしめた。
 つながったままで、頬を寄せ、腕の中に収めた委員長の頭を優しくなでてやる。
 顔に浮かんだ、苦しげな表情が薄れていくまで、何度も何度も、オレは委員長の頭をなで続けた。
 少しずつ、委員長の顔が穏やかなものに変わっていく。
 うっとりとした表情を浮かべながら、ベッドについたオレの手を、何かを求めるように握りしめる。
「動くよ…」
 オレの言葉に、委員長はこくんと頷いた。
 ゆっくりと、奧までつながっていたものを引き戻す。
 深く、委員長の中へと入り直す。
 やさしく、そして強く締め付ける委員長の中を、オレは何度も何度も行き来した。
「んっ…あっ」
 オレの動きに合わせて、委員長が少しずつ声を漏らした。
 くちゅ、くちゅと、粘膜の触れあう音が、それに重なるように響いていく。
「あっ…ああっ………んはぁっ」
 こつん、こつんと、身体の奥で何かに当たる感触。
 オレがもっとも深いところに身体を差し入れるたびに、委員長は悩ましげな声を上げた。
「そういういやらしい表情、もっと見せてくれ」
「なに…言って……ああんっ」
 動きを止めて、不意打ち気味に耳元でささやいたオレに、委員長の甘えた声と…あえぐ声が届く。
 興奮が、加速していく。
 それは、まるで止めることが出来ないコースターのように。
 二人の中に、心地よい緊張が高まっていく。
 相手の存在を感じながら、二人は一緒に高みへと駆け上がっていった。
「あ…ああっ……もう…ダメっ藤田くんっ」
 普段の委員長からは想像もつかないほどうわずった声とともに、彼女の身体がびくんびくんと、
痙攣するように跳ねた。
 同時に、身体の中で、オレを包んでいたものが一気に収縮した。
 これまでよりも、さらに熱く包み込まれる感触。それとともに、オレも快感の波に包まれていった。
「委員長っ…」
 その言葉とともに、オレの中から沸き出してくるものがあった。
 高まっていく委員長への思いが、それと一緒になって身体の外へと流れ出そうとする。
 その、最期の一瞬。
 少しだけ冷静さを取り戻したオレは、まるでその中のものを逃すまいとする熱いぬめりの中から、
あわててオレ自身を引き抜いた。
 びゅくっ、びゅくっ、びゅくっ。
 外気に触れた瞬間、その中からは勢いよく白濁した液体が飛び出していた。
 それは、委員長の顔にまで飛び散っていく。
 メガネのふちが、白い液体に濡らされていた。
 それだけではない。
 ひたいから、胸元をすぎて、おへそのあたりまで。
 オレが放ったものは、委員長の身体を汚していた。
「はぁっ…はぁっ…」
 上気した顔で、苦しげに息を継ぎながら、委員長がオレを見る。
 とろんとした瞳。
 荒い息をつきながら、やわらかな笑みを浮かべた口元。
 白い液体をしたたらせたその姿は、たとえようもないくらい淫靡なものに見えた。
 でも、その委員長の顔は、これまでのどのときよりも美しく…そして、いとおしく思えた。
 視線が、一瞬の間に交錯しあい、お互いのすべての感情を語り合っていった。
 ――藤田くん、好き。
 ――愛してるぜ、智子。
 二人の荒く乱れた息が、少しずつ収まっていく。
 すうっと、体の中の興奮が去っていく。
 体の中で猛っていた興奮が去っていくと、そこに残ったのは委員長のことをいとおしいと思う、
ほんわりとした思慕の想いだった。
「ごめん…委員長」
 その姿に、思わず言葉が漏れた。
 オレの声に、委員長は笑顔で答える。
「なんかべたべたする…けど、イヤやないよ。藤田くんの…だし」
「でも、もう一回シャワー浴びなきゃいけなくなっちまったな」
 シャワーに行くにしても、いくらなんでもこのままっていうのもな。
 とりあえず、拭き取ってあげないと。
 ベッドの脇にあったティッシュを持って、白く染まったところへあてがう。
「ええってば…藤田くん、自分でするから…きゃっ」
 ひたいから、首筋…そして、その下に。
 くすぐったそうにする委員長の、胸の谷間に手を差し入れる。
 ぺとぺと。ぺとぺと。
「んっ……んんっ」
 手が、委員長の豊かな胸に触れるたびに、悩ましげな声がオレの耳に届く。
「…まだ、敏感なんだ」
 恥ずかしそうに顔を背けた委員長が、こくんと、小さく頷いた。
「じゃ、この辺とか」
「…ひゃうっ」
「この辺とか?」
「…ああんっ」
 当初の目的からはずれたオレの手の動きに連動して、可愛らしい声が上がる。
「えっちな身体してるよな、委員長って」
「そんなことない…藤田くんが、いじわるするからや」
 ぷうっと、委員長が頬をふくらませる。
 次の瞬間、オレたちは、顔を見合わせてくすくすと笑い出した。
 どちらからともなく顔を寄せ、キスをする。
 オレは、委員長の胸先に、指を這わせた。
 ゆっくりと、身体を重ねていく。
 …夜は、まだ始まったばかりだった。
 ──その次の日、オレたちは二人そろって学校に遅刻するはめになった。



 始まった、オレたちの新しい時間。
 あれ以来、学校の中でもオレたちは一緒にいることが多くなった。
 遅刻の一件もあって、周りからはすっかり公認カップル扱いをされてしまっている。
 …ま、悪い気分じゃない。
 時々は、昼休みに屋上に出る。
 ふたり、並んで街を眺めたりもする。
 委員長の横顔は、時々は可愛く、時々はひどく大人びて見えた。
 あれから何度となく身体を重ねた仲なのに、横顔を見ているだけで、心臓が高鳴ることがある。
 この先、オレはどれだけ彼女に驚かされて行くんだろう――?
 そんなことを考えながら、横顔をぼーっと見つめていたオレを横目で見て、委員長が
『くすっ』
と、笑った…。
 風が吹き抜けていく。
 晴れ渡った空に、少しだけ雲が浮かんでいる。
 今夜は、雨は降りそうになかった。




《終》





















 ↓ これ次第で、作品が増えたりするかもしれません。

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