『ずっと。』 〜 とらいあんぐるハート 綺堂さくら 〜






 ぎゅうっと、腕の中にあるさくらの身体を抱いた。
「あっ…きもち……い…」
 俺の首筋に巻き付いているさくらの腕は、力が入ったり、抜けたりを繰り返している。
 奥までつながっている状態で、それでも足りなくて、求めたくて、腕で強くさくらを抱
いた。
 抱きしめられると、なんだかとても暖かく思えて、嬉しくなる。
 さくらも、同じように思ってくれてるといいな、と思う。
「あっ…あっ……」
 さくらの甘い声が、脳髄に突き刺さる。
 ぬるぬるのさくらの中で、ゆっくりと動いた。
 絡みついてくるどろどろの愛液と、精液。
 そんななかをただようほどに、気持ちが高まっていく。
「も……だめ、また……」
 きゅううっと、締まる感触。
「いっちゃ……ぁ、あ…ぁ……」
 半ば開いて、焦点の合わない瞳で、さくらが俺を見た。
 さくらの声と、感触と、淫らな表情を見た瞬間、一気に限界を超える。
 避妊具は、使ってない。
 さくらのなかに、すべてを、放つ。
 身体がふるえるたびに、吸い出されるかのように。
「…あ……、あついの、でてきて……」
「出てるよ……さくらのなかに、全部」
 達した瞬間とは違った、少しずつ痺れるように沸き上がってくる快感を求めて、ゆるゆ
ると動きながら、最後の一滴まで放出していく。
 時折、その動きが敏感なところを刺激するのか、さくらがぴくんと反応してくれるのが、
嬉しかった。
「……だいぶ、楽になりました」
 薄く目を開けて、息を整えて、さくらが言った。
「大丈夫――ですか? 私、かなり無茶なこと、要求してたみたいで」
 さくらが求めるままに、何度も何度も交わってきた。
 そのことに、さくらが触れる。
「平気だよ」
 本心から、そう答えた。
 発情期のさくらを相手にするのは、少しばかり体力的につらいのを除けば、楽しめる行
為だ。
 ただただそれだけを求めてくる姿が、いつもとは違う意味で、非常に可愛い。
 それに、今回からは、別の意味もある。
「なんだか、いつもとは違う感じですね」
 ゆっくりと息をつきながら、さくらが、手のひらをおなかに当てる。
 そして、まるで祈るように、目をつぶった。
 その顔が、なんだかとても綺麗で、見とれてしまう。
「いろんな想いが、体の中にぎゅっと詰まったような感じが、します」
「赤ちゃん、できるといいね……」
 人狼と吸血鬼が四分の一ずつ、人間が半分。
 生い立ちはちょっと特殊だけど、きっとさくらみたいに可愛くて素直な子になると思う。
「今回、もしだめでも……」
 さくらの手に、自分の手を重ねる。
「二ヶ月後も、次もその次も、ずっとずーっとしてあげるからさ。俺の子を身ごもるまでは、
手は抜かない」
 その言い方がおかしかったのか、さくらがくすっと笑った。
「期待……しちゃいますよ?」
「いいよ。子供たくさん欲しいし、さ」
 そうすれば、たとえ自分の命に終わりがきて、さくらを後に残すことになってしまっても、
少しでも寂しい思いをさせなくてすむだろうから。
 思い出の中に沈み込んでしまうようなまねを、させるわけにはいかない、と思う。
「そうですね、……多いほうが楽しいでしょうね。でも、私の娘だと、わがままに育って
大変かもしれませんよ」
「それはそれで、可愛いと思うけど」
 さくらの横に。身体を横たえた。
 すぐちかくに、さくらの顔。
 ――時々動いてる、ふさふさの耳。
「そういえば、俺と……その、する前は、発情期の時とか、どうしてたの?」
 ちょっと、興味がある。
「さくら、初めてだったけど、我慢してたわけじゃないでしょ」
「我慢は……できないと思います。よほど意志が強ければ可能かもしれませんけど、あま
り試してみる気には、ならないですね」
 困ったように、さくらが視線をそらす。
「下手をすると、おかしくなってしまいかねないです。こんな言い方、言い訳じみてて嫌
なんですけど、発情期の時にしてもらわないと、その……」
 さくらの顔は、真っ赤だ。
 大人びた表情が、一瞬に子供っぽく戻って、可愛い。
「もどかしくて、気が狂ってしまいそうなくらい」
 さくらが、頬を寄せてくる。
 そのまま、すりすり。
 気持ちよさそうに、目をつぶったまま、何度もすり寄せてくる。
「……よかったです、あなたに会えて」
 きゅ、っと抱きついてきて。
 ぺろりと、さくらの舌先が俺の肌に触れる。
「俺も、さくらに会えてよかった。けど……」
 苦笑しながら、言葉を続ける。
「さくら、質問に答えてないよ」
 びくっと、さくらの身体が固まった。
「もしかして、誤魔化してた?」
「……少し」
 顔を上げて、さくらが近づいてくる。
 間近に、大きな瞳。
 くちびるが、触れあった。
 ほんの短いキス。
 こつんと、さくらがおでこを当ててくる。
「恥ずかしいです」
「だと思うけど、やっぱり聞きたい」
 さくらの身体を、そっと抱きしめる。
 少しでも恥ずかしくないように、お互いに顔が見えないようにして。
「……始まる年齢には個人差があるんですけど、生理といっしょに、発情期も来るように
なるんです」
「だと、時期的にはかなり早いよね」
「異常ではない、って教えられていてすら、かなりショックでした。……その、誇張では
なく、ものの見方が変わったように思います」
「対処の方法は、決まってるの?」
 一族の言い伝えとか、なんかありそうな感じだけど。
「小さい頃は身内の女性がしてあげたりします。少し大きくなってからは……一人でする
ことも多いんですけど、それで治まらない場合は――鎮めるための専門の人に、お願いす
ることもあります」
「医者みたいな?」
「そうですね。私たちにとっては、定期的に訪れる、持病のようなものですから。――も
ちろん女性で、その、性的なものとかは全然含まなくて、作業してるって感じなんですけど」
 ちらりと、脳裏に“治療を受ける”さくらの姿が浮かんだが、すぐに頭から追い出した。
 真面目な話なんだから、きちんと受け止めてあげないと。
「連れ合いが……一緒に暮らす相手が決まるまでは、不安があります。だいたいは前兆が
あるからいいんですけど、時期がずれやすい人とか突然始まってしまう人だと、その前後
には怖くて一人では出歩けないです」
「突然始まったりとか、あるんだ」
「私はないんですけど……人によってはあるみたいです。体調にもよるので、発情期の前
後は私も気をつけるようにしています」
 また、さくらが身をすり寄せてくる。
 さらさらの髪を、ゆっくりとなでてあげる。
「発情期の相手をしてもらうっていうのは、その人の子供を産んでもいいっていうことで
すから、プロポーズみたいな意味を持つんです。最初にしてもらったときは、その、私は
そんなに深くは考えてなかったんですけど、後から考えて……ああ、そうなんだなぁって」
 照れくさそうに、さくらは言葉を切る。
「なんだか、恥ずかしくて、嬉しかったです。好き、っていう気持ちを、後押ししてもらっ
たみたいで。自分のことなのに、変なんですけど」
「ん……ありがと、さくら」
 一緒にいてくれることに、俺を想ってくれていることに、あらためて嬉しくなる。
 背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめた。
 脚をからませて、すべすべの肌に触れる。
 さっきまで静まっていたものは、すっかり固さを取り戻していた。
「まだ、元気……ですね」
 さくらが、くすっと笑った。
「そんな可愛いとこ、さくらが見せるからだよ。……実は、結構疲れてるんだけど」
 さくらの首筋に、触れる。
 汗の匂いと、もともとのさくらの匂いが混ざり合った、不思議な香りがした。
「シャワー、浴びてきてもいいですか?」
「駄目。このままでいいよ。……嫌?」
「いいですよ。私は…その、大丈夫ですから」
 少し期待するような、少し困ったような、さくらの瞳。
「あなたが、おなかいっぱいになるまで……何度でも」
 顔に触れたさくらの指先が、柔らかくて、優しい。
 ゆっくりと、くちびるをあわせた。
 さくらの中に、入っていく。
「あ……」
 くぐもったさくらの声が、部屋の中に響く。
 これからも、何度も身体を重ねていくだろうけれど。
 いまは、そのなかでもとびきりの時間。



《終》






























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