chapter_2 鏡のお部屋のアヤカちゃん                    < 三人称 >

               ∴ ∴ ∴

 どうにかこうにか、お仕事、終えて。
 それは、セバスチャン氏が森(敷地内の、である)の小径を、来栖川のお屋
敷へと戻っていく途中のコト。
 ブゥーン…ブブブブーンッ! …ボッボッボッボッ、バリバリバリバリバリ!
 突如として、けたたましい音が降ってくる。
「むうっ!?」
 眼光鋭く空を見やれば。お屋敷の裏手にあるヘリポートを目指して、すでに
降下を始めているクリーム色の機体。巻き起こる突風、木々のざわめき。枝葉
がぐぅわんぐぅわん揺れているのが、遠方ながらも見てとれる。
「アレはっ! 綾香様の専用機ではないか!」
 ヘリの胴体側面、昇降ドアの辺りにデカデカと。四コマ漫画のキャラクター
調、可愛くディフォルメされた綾香のお顔が、ばっちりプリントしてあったり
する。「イェーイ!」と得意げに、ピースサインを突きだしている。見間違え
ようハズもない。
 ちなみに、当然といえば当然ながら、対となる芹香お嬢様用ヘリも存在する。
こちらはほぼ等身大の八頭身イラスト、手には立派なホウキ、足元に黒猫を従
えた、黒衣の魔法使い少女といった風。これで赤いラジオでも提げていたなら、
版権で訴えられかねないようなシロモノである(…等身をやはり可愛くディフ
ォルメするという案もあったのだが、セバスチャン氏の猛反対でツブされたの
だった。彼としてはごくごく自然に、芹香お嬢様の高貴なお美しさを茶化すよ
ーな所業は許せぬと考えたまでだが。むろん、こちらも危うい橋であったと言
えよう)。
 閑話休題。
 セバスチャン氏の心に不安が過(よ)ぎる。
「ま、まさかっ! これは、芹香お嬢様の身に何かがっ…」
 呟く言葉も、もどかしく。
 …ダダダダッ! パソコン入りの鞄は微塵の迷いもなく草むらにおっぽりだ
して(グガシャッと、背筋がさぶくなるよ〜な音が…)。熱く、激しく、豪快
に走り出す。
 なかなかどうして、これが老人とも思えぬ程の俊速である。

 現在。
 芹香と綾香の来栖川御令嬢姉妹と、そのお付きの人々ゴチャゴチャの、ご一
行様は。日本を離れてはるばると、欧州はスイスまで。セバスチャン氏を留守
に残して、スキー旅行へと出かけていた。
 予定としては三週間。出発してから、まだ、十日と経っていない。
 …では、何故? 調布の格納庫にある筈の綾香のヘリコプターが? あれは、
それぞれの所有者の為にしか飛ばさないことになっているのだ。
 何かあったと考えるのが、普通だろう。
 予定を繰り上げて、日本に帰国せねばならぬような、重大な何かが…。

 頬に風を感じながら。
 超一流の執事たるモノ、まさにこのような非常時の為に、日々、身体を鍛え
ておくのだ、と。
 …非常時というか。客観的には、ただ一刻も早くお嬢様にお会いしたいとい
うだけの気持ち、その可能性の為だけに、彼は走る。

 セバスチャン氏にとって、やんちゃな綾香サマはともかくも、芹香お嬢様に
ご拝謁できないという『非日常』が繰り返されるのは、不本意にして寂しい限
りである。
 年齢的からすでに第一線を退いていて、なのに常日頃つきっきりで世話を焼
いてくれるセバスチャン氏に対し、芹香さんとしては、ボーナス休暇プレゼン
トのつもりであった。自分がいないあいだ、のんびり骨休めして欲しいです、
という…。
 だが、その思い、悲しくも空回りである。
 まず一つ。なにしろアレが、アレほどまでに手が掛かるとは、誰にも予想し
得なかったってコト。心労は、蓄積されてく一方である。
 そしてもう一つ。尽くす対象の存在しない生活は、ドコか張りに欠けるとい
うコト。おかげで本邸の使用人たちにも、いささか老け込んだのでは、などと
陰口を叩かれる始末。
 ことセバスチャン氏にとっては。あの、まさに文字通りの微笑こそが、総て
を癒やす、ナニモノにも代えがたい報酬なのである。

 それを、偽者がいかに真似してみせようとも、そんなモンはただの冒涜、嬉
しくも何とも…。あ、いや、確かに、表面上はいかに似通っていようとも、あ
れは別物。そう、莫迦言っちゃいけない、似て非なる物、ヒトに非ずの機械
(からくり)人形風情。作り物の微笑みに、疲れが吹っ飛ぼうハズがあろうも
のか…。
 芹香お嬢様よりは遙かに多彩な表情を浮かべてみせるロボット、奏子に、ジ
ツは密かに動揺を覚えているセバスチャン氏。だからこそ余計に、ホンモノの
お嬢様にお会いしたいという気持ちが募るのかも知れない。

               ∴ ∴ ∴

「やっほーっ! おっひさぁーっ!」
 走ってくるセバスチャン氏に手を振って。
 まだ空中のヘリの、綾香嬢。ひょいっと無造作に、一メートル下の地面に飛
び降りる。
「…あ、やばっ」
 ブワッと捲れ上がるスカート。うっかり失念していたが、今の彼女は清楚に
してお嬢様然とした格好なのである。
 両手で慌てて押さえつつ。それでもタンッと、体勢を崩すことなく着地する
あたり、抜群の運動神経である。
「ちょっとセバス。…今、見えちゃった?」
「そんなコトよりもっ!」
「…そんなコトって、どーゆーことよぉ(あたしってそんなに魅力ナイの…ブ
ツブツ…そりゃ姉さんみたくお淑やかぁ〜なオジョーサマってんじゃないし…
ブツブツブツ)」
「何があったのです! ご旅行は! 芹香お嬢様は!」
 ひどくうるさいローター音に負けじと、怒鳴るように尋ねる…いや、もはや
尋ねるように怒鳴っているセバスチャン氏。
「ちょっとちょっと! やめてよ! 耳がガンガンするでしょ! まずはここ、
離れてからよ!」
「はっ! なんですと! よく聞こえませんぞ!」
「あんたの声がうるさいっての! いちいち怒鳴らないでよっ! あー、もお
っ、だからこっちきなさいっ!」
 綾香は老人に腕を絡めて、グイグイと引っ張っていく。
 誰かに引っ張られるよりも、率先して引っ張る姿の方が似合うのは、ダミー
の詩子と変わらない。…が、そこにパラリとひとつまみ、優雅さを感じさせる
のが、やはりホンモノのお嬢様たるゆえんかも知れない。

 本邸庭先のテラスのテーブルに座って。
 白いエプロンドレスの似合う小間使いのお姉さん、熟練の技術で一滴もこぼ
すことなく、かつ、にこやかな微笑みさえ浮かべて運んできた、温めのミルク
ティーを飲みながら。
 セバスチャン氏に、何事も起こっちゃいないということを明言した上で。
「姉さんったら、意外やコンジョーのヒトだったってのが判っちゃったわ」
 もともと今回のスキー旅行を言い出したのは、珍しいことに芹香なのだった。
彼女なりの、とある目的あってのこと。
 仲良き下級生の男の子が、本人としては一分後に忘れてたくらいの何気なさ
で、冬になったらみんなでスキーに行きたいよなぁ…なんぞと無責任にものた
まわれたのが、コトの始まりなのであった。
 さすがにセバスチャン氏はそのことを知らない。綾香は、姉の口から聞いた
わけじゃないけれど。可能性を幾つか検討してみて、大方こんなトコでしょー
ねぇと、ほぼ正解を思い浮かべている。
「そんなわけでもう、ねばる、ねばる。静かで無口で、相変わらずの無表情、
んだけど頑張るわよぉ。…でまぁ、初心者コースをヨロヨロと移動できるって
レベルには、到達したわ。あれをボーゲンと呼んでイイかどうかは、また別問
題としても」
「わずか一週間ばかりで! さすがは芹香様! うう、成長なされましたなぁ…」
「…ま、まぁ、三日で転ばずに立てるようになったってのは、評価してイイか
もね、ええ。…そうよね、あの姉さんなんだもの…凄いコトなのよね、うん」
 セバスチャン氏の嬉しそうな顔に気後れし、疲れを覚える綾香。とりあえず
は同意しておく。
「それで? 何故、予定を切り上げられたのです?」
 と、綾香さん、不意にうるうる、瞳を潤ませて。両手をなよなよっと、葵よ
りは遙かに曲線的なシルエットを持つ胸の前で、お祈りするように組んでみせ
る。
「あぁ〜ん、んだから、それなのよぉ〜。せばすぅ〜、もぉ、聞いてよぉ〜」
 いきなりの乙女ちっくもーど発動。偶然ながらそれは、その愛の力に鬼すら
も畏怖する、とある健気な同世代少女の決めポーズに酷似していた。
 可愛らしくもわざとらしく、多分にウケを狙っての豹変なのだろうが。セバ
スチャン氏、このところ二体のメイドロボに散々やられているので、思わずギ
クリとさせられる。
「…な、何でございましょう?」
「どったの? セバスったら、腰が引けてるわよ」
「い、いやいや。何でもありませぬぞ。どーぞ、お続け下さい」
 ティーカップを手にして、薔薇の蕾のような唇まで、優雅に運ぶ。白い喉を
こくこく微妙に震わせ、お嬢様の一口分、飲む。表面に波紋を打たせながら、
紙のように薄い陶器のカップ、音もなくテーブルの上へと戻す。
 一連の動作を意識せずにこなしてから、綾香は再び口を開いた。
「うん…。んだからね、確かに私、姉さんにスキーを教えてあげる為に、つい
ていったワケよね。最初に約束しちゃったんだから、しょうがないわよ、それ
は」
「ですなぁ」
「…でも、ね。…私だってやっぱり、スキー行ったからにはっ! 難易度高い
上級者コースで遊びたいしっ! あっちの格好良くて上手い子たちと友達にな
って、一緒に楽しく滑りたいわよおっ!」
「そ、それは…」
「なのになのに、来る日も来る日も、初心者コースの下の方、殆ど傾斜もない
よーなトコで、ずぅーっと姉さんを見守ってなきゃならないって、コレ、どー
思うっ!」
「そり……ふぐ、もごもご…」
 なんとも嬉しいですなぁ、などと応えそうになって、慌てて言葉を濁したセ
バスチャン氏。アクティブな綾香では、そりゃ飽きるだろう。容易に想像がつ
く。
 しかし。それならば、芹香お嬢様をほっぽっておいて行ってしまえばよいの
では? セバスチャン氏、私の立場からは非情に申し上げにくいコトながら…
と、おそるおそる言ってみる。
「それは…。貴方がいたなら、さっさとそーしてたわよ」
 綾香はそっぽを向いて、ふてくされたように呟いた。
 照れ臭いのである。
「ウタとカナ、ゲンゴローちゃんに任せて。セバスには一緒に行ってもらうん
だったわ」
 仕草がらしくて、微笑ましくて。セバスチャン氏、フッと口の端、緩めてし
まう。
「ちょっとヤダ、セバスッてば、何がおかしいのよ。…もうっ」

「…それで。あのですなぁ、…綾香様?」
「なによ?」
「その…芹香お嬢様は、どちらに?」
「ドコって、まだあっちよ。欧羅巴(ヨーロッパ)」
「は?」
「さすがに音をあげて。私だけ、ガッコでの急用を思い出したってコトにして、
帰ってきちゃった。ほら、だって、急用なら仕方がないじゃない? …あ、安
心して、スキーはお終いにしてきたから。あれでもまぁ、ご当人としては満足
みたいだったし。第一歩としてはあんなモンでしょ。…それで姉さん、あんま
りあっち行ってないじゃない。観光してから、予定の頃合いには帰るって」
「…そうですか」
 露骨にがっくり肩を落とす。
「まー、まー、まー。…んと、それじゃあ、じらすのもナンだし。姉さんから
の伝言ね。いいかしら?」
「な、なんですと!? し、しばしお待ちを!」
 ぴしっと襟を正し、蝶ネクタイの歪みを直す。立ち上がって服の埃を払おう
とまでする老人を、苦笑しながらとどめる少女。
「やぁ〜ね〜、もぉ。テレビ電話が出てくるワケじゃないのよ」
「ですが、しかし…」
「ハイ、ご静聴。えっと、なになに…『大事な子を衣装ダンスの中に忘れてき
てしまいました。もしよろしければ、お手数ですが、連れてきて下さい』との
コトですわ」
 メモの切れっぱしをチラチラ見ながら、綾香さん、おシトヤカさを気取って、
読み上げる。
「…して、そのココロは。ワタクシのヨミによれば『セバスチャンがいないと、
芹香ちゃん、寂しいッ!』ってトコですわね」
「ごほん、ごほんっ。綾香様、そのようなお戯れは…」
「あーら、顔がにやけてますわよー。ほらほら、タンスのウサちゃん連れて、
とっとと行ってらっしゃい。成田まで私のヘリ、使っていいわよ。そのつもり
で返してないんだから」
「ううっ、綾香様、かたじけない…」
「いえいえいえ、このくらいのコトは。プラハ、ロンドン、それからトリノ。
欧州三大古都マジカルミステリーツアー、せいぜい楽しんできてね」
「や、やはり、そうなるのですかな。…いや、無論、芹香お嬢様のお供となれ
ば、たとえ火の中、水の中…」
「ハイハイ、もう充分知ってます。今更、言わずともよろしい」
 茶化すように言いながらも。カオをフッと曇らせた綾香。ホンの少しだけ、
不機嫌そうな、羨ましそうな目つきをみせたのだった。

 セバスチャン氏、そそくさと退場。
 綾香さん、ひとり優雅に、午後のひととき、ティータイム。
「夕食にはまだ、一刻、二刻。まずはお軽いものでも如何(いかが)かしら?」と。
小間使いのおねーちゃんお手製、さくさくアップルパイにこんがりミートパイ。
ひとくちサイズに切り取って、銀のフォークでお口へと運んで、もぐもぐもぐ。
「さてと、これから、どうしましょ…」

               ∴ ∴ ∴

「さて、と。これから、どうしましょ?」
 セバスチャン氏を巧くかわして寝室へと戻ったプロトタイプの二人、綾香モ
ドキの詩子ちゃん、芹香モドキの奏子さん。お互いに顔、見合わせて。
「…………」
「とーぜん、そーよねー」
 ふっと、綾香な口調から素に戻って呟く。
「…それこそが、御主人様の意に叶ったコトなんですもの」
 優しく、優しく。他人(あやか)から一時貸し与えられた想いを込めて、ゆ
さゆさ。葵を揺り起こす。
「起きなさいな、葵。そんなに眠いの?」
「…ぅ〜ん、ふ〜ぃ…」
「ほぉーら。つんつんっと。お目覚めの時間よ〜」
 葵の鼻先、鼻筋、小さなひたいへと。つっついて遊ぶ。
 夢に現(うつつ)に、微睡みの格闘少女も、さすがにパチッと目を開く。
「ふぁふ…。あれ…? あやか…センパイ…なの? えっと…ここは…」
「ここは、貴女の綾香センパイのおうち。貴女は、綾香センパイのかわいい後
輩の葵ちゃん。…OK?」
「はぁ…、えっと…、ええ、そですよねえ…」
「さてさて、それでは。うれしたのしだいすき〜な時間、第二ラウンドの、始
まり始まり〜!」
「えっ…あ!」
 葵、ようやく覚醒し、眠りに落ちる前の出来事がフラッシュバックしたとこ
ろで。時すでに遅し、早くも身体のあちらこちらと、急所はしっかり押さえら
れていた。素早い攻めである。
 今度のお相手は、綾香の姿を与えられた方の人造少女のみ。だがしかし、一
対一でもふりほどけない。何より力が入らない。先ほどの疲労か、押さえられ
ヨワいトコのせいか。
 泣きゴトを呟くよりほか、葵には何も出来ないのだった。
「ふぇーん、綾香センパ〜イ、もぉ勘弁してくださーい!」

               ∴ ∴ ∴

 日が暮れて、月が出て。

「こちらでお休みになられれば…」
 と引き留める、先ほどの小間使いのおねーちゃんに。
「ん〜、止めとくわ。姉さんじゃないけど、寝る前に挨拶しときたい子たちも
いるから。…それに、あの子たちの様子、気になるじゃない」
「奏子さんと詩子さんですね。…判りましたわ。それでは、明日のご朝食は、
八時頃にお運びいたします」
 綾香は慌てて、それを止める。
「あ、だめだめ、やめて。そんなめんどーなコト、しないでいいわよ。姉さん
が戻るまで、私がこっちに食べに来るから」
「…それはありがたいですけど」
「お塩を忘れた、フォークがないで、いちいち待たされるのはご免だし」
 その程度のモノなら、あちらにもございます…とは、使用人の娘もツッコま
ない。
「それでは。そうさせていただきますわ」
「うん。じゃね。ご馳走様、お休みなさい」

 夜の庭。綾香は身軽く、ジョギングしたり、スキップしたり、月を見上げな
がら歩いてみたり。
 自宅へと戻っていく。

「たっだいま!」
 たぶんここにいるんだろーな、と。自分の寝室のドアを開けて。パチンと電
気のスイッチを入れる。
「あら」
 誰もいない。聞こえてくるのは水の音。お隣のバスルームから。
 そして。ベッドの上には、毛布にくるまって眠っている、誰か。
「奏子、詩子、どっち?」
 おやまぁメイドロボでも眠ることってあるのねー、なんて妙に感心して。何
気なく近づき、すーすーと漏れ聞こえてくる寝息に首を捻る。あまりにも生物
的な気配。
「…えっ? 嘘、ちょっと…葵?」
 見覚えのあるアタマ。そっと覗き込むと、やはりそれは、かわいい後輩の顔。
ぐっすりと寝入っている。
「ちょっと待って、何よ、これ…」
 何よも何も、知れたこと。ここにいるのだから、アレが連れてきたに違いな
い。お風呂場にいるに違いない、彼女が。
 くるっと振り向き、つかつかと。脱衣室を抜けて、バスルームに顔を突っ込
む。
「ちょっと詩…きゃあっ!」
 もうもうと湯気のたゆたう中、ロボット少女たちの熱烈なるラブシーン。裸
で二人、ひしっと抱き合い、盛んにもぞもぞと揺れ動き、押しつけ合い、それ
はもうアレやコレやと…。
 叫んだ綾香さん、一瞬にして顔が朱に染まる。なにしろ自分と姉の写し身で
ある。あくまでも姿形だけで、それをしているのは自分じゃないのだけれど。
 なにしろまぁ育ちが育ち、そーゆーコトに対しては、見た目に付きまとうイ
メージよりもぐぐっと奥手でウブなお嬢様。夕暮れ時の公園で、ちょっと気合
いの入ったキスシーンなどを目撃してしまうと、頬を染めてさり気なく目を逸
らしてしまったりするほどのモノである(かつ、それでもちらちら二度三度と
見てしまうのはお約束である)。
 当然、冷静に対処できない。羞恥心に火がついて、かあっとアタマに血が上
る。
 部屋にとって返し、すぐにまた戻ってくる。
「あんたたちっ! 何してんのよおっ!!」
 どこから持ってきたのか、取り出したるは巨大なハリセンであった。ぐわあ
っ…と振り上げて。
 びしこーんっ! ばしこーんっ!
 右に左に、鮮やかなハリセンさばき。上手いこと引き剥がされて、二体はヨ
ロヨロと倒れ込んだ。ブッ叩かれて初めて、ロボット少女たち、御主人様の一
人のご帰還に気がついたようである。
「あ」
「御主人様」
「ヒトのカッコで、おバカなコトしないでよっ!!」
 奏子と詩子、顔を見合わせて。取って付けたように言った言葉が。
「あーん、いたいですー」
「ごめんなさいですー」
「マルチの真似しても、だめっ!」
 切れた綾香さん、怒りにまかせて叩きまくる。
 ビシッ! バシッ! ズバンッ!
「あぁーん…」
「きゃん」
 厚手の紙で出来たハリセン、音は派手であるが、それ程に威力はないようで
ある。叩かれてる彼女たちの反応が色っぽく、あまりにも芝居じみていた。
 …いや、彼女たちに痛覚はあるのだろうか? あるいは、SMプレイのつも
りなのかも知れない。
 終いには、綾香の方が疲れ果てて、息も上がってしまった。
 ヤダ、ちょっと気持ちいいかも…などと、叩いていた側の綾香さんが感じて
いたかどうかは、定かでない。

「と、とにかく、よ! 何が、どーなってるの! 事情を説明しなさいっ!」

               ∴ ∴ ∴

「あら、お目覚め? おはよ、葵」
 綾香が差し延べた手は、けれど、途中で止めざるをえなかった。
 びくっ、と。あからさまな拒絶の色、怯えの眼差し。じりじりと綾香から遠
ざかろうとする葵。
「…ふぅ」
 ぴきっと、一瞬だけ表情を凍りつかせて。常日頃、犬コロのように懐いてく
る可愛い後輩に、こうまであからさまに拒否反応を示されれば、それはかなり
ショックなコトに違いない。ましてや、綾香さんとしても、葵のことは…。
 それでも辛うじて、大袈裟なため息とともに雰囲気を茶化し、誤魔化す。
「やーれやれ。困っちゃったわねー、もぉ」
 おーばーに、お手上げのポーズ。

 明くる日、日曜日の朝。ここは綾香の書斎である。
 室内装飾は他の部屋に負けず劣らず、控えめにして豪華。
 造り付けの本棚の一段に並ぶ少女向け小説とコミックスが女の子らしさを主
張しているが、その下の段を埋める格闘技とスポーツ関連の専門書、技術書の
たぐいが、打ち消して余りあるほどの存在感を有している。
 この部屋は、二面の壁、向かい合うかたちに置かれた二枚の姿見が特徴的で
ある。ためにここは、この館の暮らす人々に「綾香様の鏡の間」などと呼ばれ
ていたりもするのだった。今はそのどちらも、埃よけのカバーが提げられてい
て見えない。
 ぐっすりオヤスミの葵さんを、そっと、そぉっと、慎重に。抱き上げて運ん
できたのは、もちろん綾香さん。あどけなく眠りこけてる葵の顔に、何故かち
ょっとドキドキ。こくっと生唾。
 そして現在は。色違いのパジャマを着て、ソファーに横たわって上体を起こ
している葵、その足元の側に腰掛けているのが綾香、といった構図なのである。

「葵、いったい何があったか知らないけど…」
 嘘である。実は綾香、土曜の午後に起こった総てを、余すところなく、知っ
ていたりする。
 二体のプロトタイプが視界に捉えたモノは、映像情報として残らず記録され
ている。モデルがモデルだけに、そしてまた実験運用の舞台が天下の名門女子
校、男子禁制の秘密の花園ということもあり、専任開発者たちでも閲覧には許
可がいる。八割が男性であるのだから仕方が無かろう。許可するのが誰かとい
えば、もちろん、オリジナルの姉妹である。自らの写し身の入浴に着替え、そ
ーいったサービスショットを勝手に見られちゃたまらない、その前にしっかり
検閲を、と言うワケなのだが…。
 昨晩、一人で鑑賞して。アア、アレ、ダメヨ、イケナイとは思いつつ。罪悪
感から繰り返して思うだけ、だけどもう目は釘付け、ディスプレイから剥がせ
ない。愛らしい後輩の赤裸々なプライヴァシー、最後の最後までじっくりとっ
くり拝見してしまった綾香さん。
 覗きという背徳的な悦楽に目覚めてしまったのか、それとも対象が葵だから
か、とくんとくんとくん、高まる胸の動悸、緊張に渇く喉、ひっきりなしに息
を飲んで…。
 彼女のおメメが赤いのは、おかげでなかなか寝付けなかったせいである。
 さて。
 綾香としては、しらばっくれて、いつものペースで押し通すことにした。お
芝居だったらお手のもの、常日頃「お嬢様な綾香さん」と「やんちゃな綾香ち
ゃん」を初めとする幾つかの顔を使い分ける彼女である。ここは「優しくて頼
れる先輩(洋行帰りヴァージョン)」といったところか。
「ま、いいわ。とにかく、はいコレ、おみやげね」
 グッと無理矢理、紙の包みを押しつける。一抱えもある大きなモノだ。
「おみやげ…」
 呟いたまま、けれどなんのアクションも起こそうとしない葵に、綾香さん、
イライラしてくる。
「あー、もうっ。ほらっ、チャキチャキ破くの。中身を取り出すでしょ、そし
て素直に喜ぶ。OK?」
 ひったくって、ビリビリ。中身は真っ白な狐のヌイグルミ。手触りがほわほ
わのそれを改めて押しつける。
「あ…」
 不安、心細さ、精神が不安定になってる今の自分、そういったモノを補うよ
うに、すがりつく対象がそれしか無いかのように。葵はヌイグルミを、きゅう
っと抱きしめる。
「…あったかい」
 ほんの少しだけ、落ち着かせることに成功。心の中で、ガッツポーズの綾香
さん。ノラの仔猫の餌付けの心境。

 期せずして、ぐぐぐーっと鳴った、葵のオナカ。葵は反射的に、照れて顔を
伏せる。そうしてもじもじしている。
 綾香にしてみれば、思わず抱きついちゃいたいくらいに可愛い葵の様子だけ
れど、今それをしちゃうと最悪の結果を招くだけ。葵の、自分に対する不信感
を跳ね上げるコト間違いなし。ここはぐっと堪えて。
「ご免ねー、今、ヒトが出払っちゃっててね。こんなモノしか用意できなかっ
たのよ」
 テーブルの上のトレイを手渡す。湯気を立てているクリームシチュー、ポテ
トサラダとハンバーグステーキ、それから山盛りの御飯。綾香が調理場を漁っ
て見つけてきた、缶詰やら真空パックのレトルトである。どれもが「一流シェ
フの味」だの「○○ホテルの…」と、それなりの味は保証してくれるが、とん
でもない値段の御大層な商品ばかりである。この館では、有事の際の非常食と
いう扱いらしい。
 美味しそうな匂いがさらに、葵のオナカを刺激する。
「わ、私…あの…、い、いただきますっ」
 もぐもぐ、ぱくぱく。一心不乱に、お箸と口を動かす。
「どう? 美味しい?」
「…ええ、はい。美味しい…です」
 まだまだお固い雰囲気、警戒心は和らいでいない。…そうよ、ここからが正
念場。きれいにスパッと、葵の誤解を解かなくちゃ。ぐっと心を決める綾香。
「さてさて葵ちゃん、食べながらでいいから、ちょっと聞いて。これから、来
栖川綾香さんおとっときの、ちょっとした手品をご披露いたします。…見てく
れるかしら?」
「………」
 返事を待たずに、壁の姿見のそばへと移動する。埃よけのカバーを巻き上げ
ると、そこに大きな鏡が出現する。
 鏡の真っ正面に立つ綾香。鏡の中の世界にも、向かい合わせに立つ綾香の複
製。
 まずはウォームアップ。首を右に左にと傾ければ、鏡の中の彼女も同じよう
にする。腕を回し、膝を上げ下げし、上半身を軽く捻る。寸分と狂わず、向こ
う側も、真似をする。鏡なのだから、ごくごく当たり前のこと。
 いったい何が始まるのだろうと、お箸を止めて見ている。そんな葵に、鏡の
向こうの綾香が、パチッとウィンクをした。
「それでは…」
 たったかたったか踊る綾香。くるりと身を翻し、背を屈めたかと思うと、軽
やかなステップでジャンプする。しなやかに腕を振り、脚をはね上げる。
「わぁ…」
 食べてる途中の葵が見とれてしまうくらい、見事なモノである。日本舞踊と
も西洋のそれともつかない、適当な即興のようでもあり。けれど、あるパター
ンの反復のようでもある。

 そのうちに。
 踊りながら綾香、テーブルの上の果物バスケット、真っ赤な林檎を掴んで弄
ぶ。軽く宙に浮かべて、ひゅっと身を一回転させて、反対側の手のひらに乗せ
る。危なげもなく、二度三度と繰り返す。
 あまりに見事なので、葵は思わず拍手したくなるが。…あれ? 手品と言う
より、これは曲芸じゃないのかなぁ?
 すっと、林檎二つ目。赤い色、落ちたり昇ったりのお手玉、ひょいひょい。
小粒なアルプスオトメは、お手玉にもってこいと言える。
 続けて三つ目、誤って落とすこともなく、慌てることもない。
 けれどこの時。葵からは、鏡の方を向いている綾香の顔は見えなかった。が、
鏡の中の綾香が、あっと、いつになく綾香らしからぬ表情を浮かべたのだ。失
敗に気がついたような、そんな顔を。
 葵の部屋にいる綾香は、テーブルのバスケット、そこにある四つ目の林檎に
手を伸ばす。同時に、鏡の中の綾香は、テーブルに手を伸ばすも、そこに林檎
が存在しないが為、むなしく中を掴むに留まる。
 四つの林檎でお手玉を続ける綾香と、三つのそれと一つの空虚を放り投げ続
ける綾香の写し身。
 してやったりのクスクス笑いと、困った表情の曖昧な微笑み。
 動きに気を取られていた葵は、それに気がつくのが遅れた。違和感を覚えて、
目を凝らし、じっと見つめて。
「…あっ!」
 凄い手品である。鏡に写らない林檎。ビックリして、お箸をポロリと取り落
としてしまった。

 緩やかにスピードを落として。やがて、二人の動きが止まる。
 綾香は鏡に向かって、手を伸ばす。当然、向こう側も。お互いに。
「さぁ、こっちにいらっしゃいよ」
 鏡面にぶつけて突き指してもおかしくない辺りで、手と手が握手。ぐっと引
っ張られ、向こうの綾香がこっちへと、ひょいと鏡のワク、ヘリを跨いだ。
「どう? ちょっとは驚いて貰えたかしら、この手品は」

 鏡のようで。今は、ただの木の枠組みでしかない。スイッチ一つで、ホンモ
ノの鏡が落ちてくる仕掛けになっている。
 隣の部屋は、家具から何から、総てがこちらの部屋と同じに作られている。
ただ、鏡に写したかのように、そっくり、ひっくりかえした状態なのだが。
「綾香センパイのお姉さん…?」
「じゃあないわよ。私が姉さんの真似をするならともかく、その逆は無理ね。
あのヒトのトロさは天下一品よ」
 二人、きれいに言葉をシンクロさせてる。
「改めて紹介するわ。この子は…」
 言葉を切って。苦笑気味に。
「いちいちハモらせないでいいって…ああ、もぉ、ヘンな感じね。微妙にずれ
て、聞き取りにくいのよ。ねえ、葵」
「ええ、まぁ…」
「モノマネはおしまい。『 DISCONNECT. SLEEP UTAKO'S PERSONALITY. 』。ご
苦労様でした、おやすみ、詩子」
 呪いの文句を唱えた途端、隣の部屋から現れた方の綾香に変化が起きた。表
情がかき消えて、人間的な揺れも消えて、一体の人形になる。
「覚えてるかな、セリオ。あの、四月にうちに通ってた子とは違うんだけど。
この詩子は、私に似せて作られたセリオタイプなのよね」
「ええ、ホントに、眼が…」
 セリオの瞳。何の感情も込めず、対象に思い入れを持たず、ニュートラルに
ただ写す瞳。先程までとはまるで違う。
「…で、非情に言いにくいことなんですけども」
「…」
「私ねー、この子に代わりをしてもらって、学校サボって旅行なんぞ行ってた
んだなー、コレが」
 おちゃらけた言い方ながらも、内心はドキドキモンの綾香。信じがたい事実
に、声なく絶句する葵。
「その証拠に。ちょっと雪焼けしてると思わない? あ、ちょっと外国まで、
スキーに行って来たもので。…えと、やっぱり顔かな、紫外線よけクリームも
完璧じゃないからね。ほら、私たちの頬の色、見比べてみて」
「…」
 じっと見比べ、こくと頷いて。ハッと、表情を変える葵。
「じゃ、じゃあ…。昨日の綾香センパイは、綾香センパイじゃなくて、その…」
「え? なんかあったの? えっとまぁ、そーゆーコトになるかしらね、うん」
 しれっと惚けてみせる。
「ここ一週間くらい、たまに憂鬱な表情を浮かべていたのも…」
「ええ、私じゃないわよ。…ああ、この子、電波の受信状況が悪い時かな、ふ
っと無表情になったりするわねー」
「昨日の、もう一人の綾香センパイは…」
「私のダミーはこの子だけど。あと、姉さんのダミーもいるわよ」
「あ、ああ、あああ、わわわ…。わ、私、そ、そんな、ヤダ、ウソ、そんなぁ〜」
 パニックを起こしかけてる葵を、ここぞとばかり、強引に抱きしめて。耳元
にそっと囁きかける。
「やっと言えるわね、ただいま、葵。すぐにも会いたくって、そうしたら私の
部屋にいたから、驚いたけど嬉しかったのよ…。スキー、無理矢理連れていっ
ちゃえば良かったなって。この一週間、葵のことばかり、ずっと考えてたわ。
私らしくもない、とても情けないんだけど」
 かなり芝居がかっているが。気持ち、八分目くらいは、ホントのコト。言う
に言えない、言う必要もないと思ってたコト。この際だからと…。
「葵、大好きよ」
 …で、とどめの一撃。頬に、チュッ。
 葵ちゃんはといえば。情報過多。完全なるフリーズ。

「………。あれっ? ねえ、ちょっと葵。あなた、聞いてるの?」

               ∴ ∴ ∴

「詩子は、器用に私の真似をしてみせるセリオなの。…けれど私も、素直に
『これが私』って情報を提供しすぎちゃったみたい。あの子はまだ生まれたば
かりで、だから照れとか既成概念とかで自分を作ってしまう私より、ずっとず
っと正直に行動しちゃうのかもしれない」
 綾香、葵に話しかけながら。…んじゃあなんで、浴室で奏子ちゃんとラブシ
ーンしちゃったりするかなぁ、と考えてしまう。…そりゃあ、姉さんのコピー
なのだし、我が姉だけあって客観的に見ても良い素材、美人ですけれど。…う
〜ん。
「ゴメンね、葵。私のつまんない思いつきのせいで、酷い目にあったんでしょ?」
「え…、え、ええ、まぁその…ごにょごにょごにょ」
「あ、言いたくないなら、言わなくていいわよ。…それで、その…私のコト、
キライになった?」
「そっ、そんなわけ、ないですっ!」
「それじゃ。…好き、なのかな? そう思ってもイイの?」
 綾香さん、告白シーンもしっかり鑑賞しているわけで。葵の答えは九分通り、
判っちゃいるのに。…そらとぼけて、改めて言葉を引き出さなきゃ気が済まな
いなんて、私ってばヒトが悪い? ううん、だって、葵の困っちゃってる姿が
かあいいんだから。意地悪しちゃうのはそのせいだもん、しょーがないわよねー。
 ついつい、ニヤニヤ笑いを浮かべてしまいそうになり…でも。葵の対応は、
しばしの逡巡を置きはしたものの、綾香の予想とはかなり違ったものだった。
 心を定めた、真摯な眼差し。綾香をドキッとさせる。
「私、好きですから。綾香センパイのこと」
「…わ、私だって。もちろん、そーよ。葵のこと好きだもん」
 ちょっぴり、らしくもなく、アセアセ。反射的に張り合ってしまった綾香さ
ん。
「よかった…嬉しい」
 ポロッとこぼれる涙。
 …んー、もぉ、なんて可愛いんでしょ、この娘って。共学だったら、男の子
たちがほっとかないわよ。だから…良かった、うちで。綾香さん、今更ながら
一安心。

「私って、さぁ…」
「…」
「ずっと前から葵のこと、好きだったのよ。…だって。小さい頃、着せ替え人
形遊びが出来るよーな『いもーと』が欲しかったの。で、プロレスごっこが出
来るよーな『おとーと』も、やっぱり欲しかったのよね」
「お、おとうと?」
「あ、ゴメン。気を悪くしたら謝るわ。でも葵って、私にとっては妹のようで
もあり、少し、弟のようでもあって、だから…」
「あ、いえ、っていうか、その…プロレスごっこって…、きゃっ」
 ぽおっと頬を真っ赤に染めて、もじもじもじ。その意図するところが、綾香
にもテレパシーのように伝わる。
「や、やだっ。葵ったら、そんな、目うるうるさせて見つめないで。ちょっと
待ってよ、まだ今は、そんなつもりで言ったワケじゃ…」
「だって…綾香センパイ…」
「はっ、恥ずかしいじゃないのっ! わ、私、だって、そんな…、こんなコト、
したコト、ないんだからっ」
 カーッと。綾香の顔が、柄にもなく真っ赤になっている。
「綾香センパイって、可愛い…」
「な、なに言って…ん、む、ぅ…」
 いつになく積極的な葵に唇を塞がれて。

 命令がないまま、静かに佇んでいたセリオ詩子は、つかつかとベランダの磨
りガラスへと歩み寄る。
 からからからからからっ…と、ガラス戸を閉じて。
 続けて。しゃーーーーーっ!
 勢いよくカーテンを引いてしまった。昼間ではあるが、自然、室内は暗くな
る。
 彼女は何故か、蛍光灯ではなく、雰囲気のある小さな黄色灯のスイッチを入
れた。そして、ソファーの二人に軽く黙礼して、部屋を退出する。

「やだあっ、くすぐったいっ!」
「マッサージですってば、綾香センパイっ!」
「葵、そんな、葵ってば、ちょっとぉ…あっ!んーっ!」
 経験はヒトを強くする。
 意外やイニシアティブ逆転の二人であった。


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